二百十五A生目 邪魔
回転斬りそのものはオーソドックスな武技だ。
型によりクセの出方は違うものの大枠では自分の周囲全体を斬るというもの。
間違いなくこのアール・グレイが使う回転斬りも周囲を斬り裂いて。
エポニーが闇から飛び出した。
「…………!」
斬り飛ばされたエポニーは……消えなかった。
そしてアール・グレイは追撃に斬りかかっていく。
「やっぱりそうですね。攻撃の位置はバラバラ、振ってきた刃に合わせようとすると消えてしまう。戦い方が慣れていて、まともに相手をさせてくれなかった」
エポニーは暗器でしのいでいるが必死だ。
明らかに何度も斬られ傷を増しているのに消えない。
チェンソーゼロエネミーも真横からゴリゴリやれば受けた暗器が折れた。
「だけれども潜んでから登場までの時間だけは、対して差がなかった! あれだけこちらに掴ませないように気をつけて立ち回っているのがわかったのに!」
それはきっと言われなければ気づかないほどの差。
そもそも眼の前に相手がいるのに悠長な潜み方は普通しないという先入観。
そして毎度飛び出す時に眼の前ばかりじゃない。
遠くから飛び出し何かを撃ったり投げたりするのにあちこち顔を出し物陰に隠れるから分かりづらくされていた。
「つまり、あなたが持つのは隠匿の能力ではない。移動能力だ!」
影から影へ移動するスキル。
それがエポニーの能力正体だった。
これにより対策がひっくり返る。
「…………」
「攻撃ラッシュを仕掛けだしたあたりから、少し疑問に思ったのです。たしかに潜伏して仕掛ける能力は強いけれど、それにしては攻撃を飽和させすぎていないかと。もっと確実にこちらの不意をつき殺しにかかってくる方が能力としては合っている……つまりここで、前提が違うのではないかと」
アール・グレイの蹴り込みが入りエポニーはよろめく。
武技で強くきらめく光が胴を一閃しついにエポニーを吹き飛ばす!
「あなたはそうするしかなかった。移動能力は移動に関して早くしかも攻撃を無効化できたとて、ほぼ同じ時に影からでてしまうのだから」
「よく喋る……」
「さらに、あなたのもうひとつの能力であなたは初見の相手に必殺を叩き込んでいた。攻撃する時に攻撃されると、闇の中に隠れられる能力。これで、さらに混乱を招いた。これは移動能力じゃなく、隠匿能力だから!」
アール・グレイがわざと反撃しなかったとき。
エポニーは隠れずバックステップで下がった。
あれはできなかったと考える方が自然な動きだ。
つまり通りすがりに切り裂いたり撃ったりするなかでわざわざ接近して刺しに行くのはカウンター誘いだ。
それを戦闘中冷静に見つけるのはとんでもない労力だが……
アール・グレイはやってみせた。
待って斬るのではなく攻撃を置くように先に動く。
素早い相手に安易なチャンスに飛びつかない。
それが出来るのならば苦労はしないんだけれど。
「多くの能力を組み合わせ、こちらの誤認を誘い、判断ミスをさそう。それがエポニー、あなたの戦い方だ」
「ワカッタ所で、勝テルトデモ?」
「ぐっ!?」
外に行き何度も斬り合っていたら突如エポニーの動きが変わった。
煙が噴き出たのだ。
最初の方で1度みたがだからといって対策はしにくい。
エポニーは勢いで脱出しアール・グレイは煙を吸い込まなきように息を止め距離を取って目に入れないように。
別に催涙煙幕ではないんだけれど見ている限り普通に土煙並みに目に痛いんだよねあれ。
とうぜんむせたら大きなスキだ。
「ワカッタダケダ。勝テルトハ違ウ」
「っそれでも!」
空から降りてくる飛び込み攻撃。
落ちてくるところで合わせたくなるが……剣ゼロエネミーもアール・グレイもぐっと我慢して転がり避ける。
剣フィランギの純白さだけが相手の正体をうつすかのように輝いていた。
「全テ私ノ力ハ攻メテ強イ。故ニ、理解シタ所で好転シナイ」
「ぐうっ、それでも!」
流れるように銃撃。
暗器投げ。
一気に踏み込んで掌底。
アール・グレイの体が鎧越しに殴られ浮く。
そして空中で回転し蹴り飛ばされる……隙間にギリギリゼロエネミーを盾モードで滑り込ませる。
衝撃をゼロにはできないけれど踏みとどまった。
攻めつづける限りエポニーに有利なスキルたちが動く。
エポニーが服の内側から球を投げつける。
閃光が球からあふれ出す!
アール・グレイは目をくらまさないよう腕で影をつくりながらすぐ横っ飛びする。
エポニーの姿はない!
アール・グレイが転がり込んだ建物影からヌッとエポニーが飛び出す。
「まずっ」
「フム」
……先に動いた大盾ゼロエネミーが動きを食い止める。
「自動盾、邪魔ダナ……」