二百十四A生目 乱撃
場所を変え戦いは続く。
今度はどこかの店舗らしき屋内。
酒瓶が並んでいるから嗜むところかな。
しかしもはや壁がぶち抜かれ大荒れである。
なにせ中でふたりが暴れているのだから。
「うぐっ、強い! もう個人で来たのを後悔してきた!」
「独リ誘ワレタ事を悔ヤミナガラ死ネ」
「絶対嫌ですね!」
剣ゼロエネミーの助太刀があるとはいえかなり追い詰められていた。
さっきまでの屋外戦闘では明らかに向こうのほうが窮していたが……
今ではいつアール・グレイに必殺が叩き込まれるかヒヤヒヤしながら私は見ることしかできない。
大前提として敵の動きは一貫してこっちと正面から殴り合わないを徹底している。
アール・グレイの剣は戦争の剣。
とにかく敵と切り結び広い中で切り伏せる動きだ。
対してエポニーはもう徹底して隠密からの殺害。
それ自体はアール・グレイも対応できてさっきからカウンターをしかけている。
だが向こうは狭所での戦いに慣れている……というか特化している。
さっきから物を投げたり蹴とばしたりしてアール・グレイに対応させ……
その間に消えて息をつかせぬ連撃を懐から叩き込む。
さっきより明らかに動きが良い。
アール・グレイも最初の暗殺攻撃と違い死の危険性があるほどやわじゃない。
だが時折心臓をえぐるような動きを織り交ぜてくる。
あれだけは剣ゼロエネミーで弾くことによりリセットをかける。
キメに行くときに目が殺意で輝くように感じるのはいわゆる経験則というやつだろう。
アール・グレイは明らかに普通の攻撃を食らうだけで精一杯だ。
幸いなのは鎧がしっかりした品で出血のわりに生命力には余裕がありそうなところ。
「戦闘時間5分……ココマデ粘ッテ首を落トセナイトハ」
「こっちもまさか、これだけわが家宝フィランギと、ローズオーラさんの剣で斬って倒せないだなんて信じられないタフさなんですが」
戦場で個人にかまける時間はあまりない。
ゆえにその分相手を吹き飛ばす威力が求められた。
確実に身を守りつつ相手を斬り飛ばす力を。
なのにエポニーはどの攻撃も致命に介さない。
本来1斬りで相手を戦闘不能にするはずなのにとはのちにアール・グレイが語っている。
もともと魔物相手ではそううまくいかないことも多いがやはりエポニーはそれ以上に手ごたえというのものが無かった。
「まるで幽霊でも相手しているかのようですね!」
「マルデ巨木に打ち込む時ノヨウダ」
各々からやりづらいという空気が漂いだした。
ただそれと勝てないという泣き言は別になる。
負けた方が死んでしまうからだ。
剣ゼロエネミーではチェンソーとしてどんどんエポニーの動きについていっている。
エポニーが物を投げつけたときに気配が一気に消えるのはもう仕方ない。
それに対しての明確な対策は屋外に最終的に逃げられるかぐらいしかないからだ。
斬撃が人形をとらえたかと思うと煙のように消える。
ゼロエネミーのチェンソー力が生かされない。
エポニーも無限に防げるわけでもないし斬られればしっかり傷が見られる。
暗器と重い銃弾が屋内を飛び交う。
1つの場所にいれば一瞬で命を刈り取らんとする乱撃。
アール・グレイくんは歩みを止めず剣を振るい敵の攻撃を防いでいく。
一瞬かち合ってもすぐ弾いて脱出しエポニーが闇に消える。
この狭い空間消えるのは明らかにスキルだ。
でもアール・グレイくん明らかに対応出来るようになってきている。
もちろんチェンソーゼロエネミーがずっと追撃していて飛び出す瞬間には斬りさいているのもあるだろうけれど……
明らかにアール・グレイの元々の吸収率が高いということがいかされている。
つまり今学習していた!
アール・グレイの横からとびだした所にゼロエネミーが飛び込む。
手のひらから飛び出した暗器が的確にアール・グレイの鎧関節を狙ってふるわれ。
光が瞬いた。
「厶!?」
弾いた。
ゼロエネミーよりも早く斬ったのは……剣フィランギ。
「分かった」
短く告げた言葉。
しかし言葉よりも雄弁に語るのは動きだった。
弾いたあと絶好の反撃チャンスで……構えたのだ。
構えとはようはタメである。
今までの動きなら最小限の動きで斬り裂いていたはずだ。
相手がすぐ消えるからそうするしかない。
はずだった。
斬られずに済んだエポニーは警戒しながら後ろへ跳ぶ。
そのままテーブルを蹴り飛ばし闇へ消えた。
「はああっ!!」
テーブルを斬り伏せる。
真っ二つにしたら自分に当たるので上から叩き落としたのだ。
しかし動きは止まらない。
動きを見ていない。
けれど確実に武技発動の光を放っていた。
回転斬り。シンプルながら使い勝手の良い強烈な剣の振り回し。
剣という前方しかカバーできない武器の弱点を補うために使われることの多い武技だが……
その時はそれが功を奏した。