二百十三A生目 回転
剣ゼロエネミーもぼうっとしているわけにはいかない。
相手の獲物が小さめなのを見て形状変化。
刃が回転するチェンソー型に!
アール・グレイの反対側から攻めていく!
「面倒ナ」
斬撃を放ってこちらは避けられる。
ただ食らってはいけないという判断だろう。
体のバランスを崩した。
そこに容赦なく1発叩き込むのはアール・グレイ。
人形の腕を斬りあげて弾く。
胴が開いた。
剣ゼロエネミーとアール・グレイの剣フィランギ。
双方が反対から胴薙ぎして……!
「舐メルナ」
黒い煙幕が広がった!
突然のそれにより風圧でわずかに押される。
その間に斬ったはずの手ごたえがなかった。
離れたところに人形は跳んで立つ。
その姿は……先ほどまでとまるで違った。
「今の、大河王国語!? 話せるのか!?」
先ほどまでは言ってしまえば普通の人形だった。
しかし今何か砕いた感覚がしたが……
おそらく偽の姿を見せる幻覚を破った。
見た目の幻覚を空蝉にして脱出するとは。
そしてその姿はいかにも闇の装束だった。
全身が黒統一。布地に覆われ良くも悪くも木材質なほかの人形たちとはまるで違う。
一切目立たずそこにいる認識を外すとおそらく見えなくなりそうな。
そんな怪しげかつ闇に溶ける認識阻害の姿。
「私ハ月解放軍戦闘長ガ一人、エポニー」
「改めて、大河王国特殊編成隊切り込み隊長、チルマルド・ファーエン・アール・グレイ! ここで、勝つ!」
「イレグラーは挫ク……」
ふたりと剣ゼロエネミーのぶつかり合いが今始まった!
まず早かったのはエポニー。
その黒装束を揺らめかせたと思うと一瞬で認識外に。
戦闘中たった一瞬でもそれが命運を分ける時がある。
「っ!」
早い。ほぼ完ぺきに決まっていた。
だからアール・グレイは……
チェンソーゼロエネミーを見た。
一瞬で合わせ剣ゼロエネミーが向く方向を見定め……
目より先に剣を振るった!
「手ごたえ!」
「ホウ」
剣フィランギが首元まで迫っていた暗記を斬りはらった。
正確には途中でエポニーが気づき体を斬られる前にひねる。
そのすぐあとゼロエネミーがギリギリと刃を回しながら迫り人形を斬る。
2度3度スキを縫うように斬っていくが深くは入らない。
表皮に傷が入ったかと思うとすぐ下がられてしまう。
「一応今のデ決メルツモリダッタ」
「危なかった……体がなんとか動いた。今度はこちらの番!」
アール・グレイの踏み込みが輝く。
とにかく彼我の差を詰めて攻撃までが早い!
まっすぐとはいえ認識の外から攻めるための移動型がしっかり身に付いた動き。
正面から不意をついているようなものだ。
実際今人形は反応がわずかに遅れる。
受けには頼りない暗器のかわりに服の内側から強烈な単発銃が火を噴く。
エポニーが人形ゆえの仕込み銃。
これでひるめば別だが。
「ぐっ」
体に当たった。
けれど止まらない。
剣フィランギは正確無慈悲に
エポニーを袈裟斬りにした。
エポニーは勢いよく吹き飛び建物に叩きつけられる。
今のは入ったな……
「あーー痛ったい……!」
「…………」
しかしていたがる方はエポニーではなくアール・グレイ。
撃たれた腹を抑えていた。
当然戦場に出るので戦装束として鎧だが人形の力で貫いている。
銃程度が貫通するあたりかなり威力の強い弾丸だったのだろう。
エポニーも何か語りたいことはあるだろうが話さずすぐに消え
させんよ?
チェンソーゼロエネミーは息もつかせぬ連撃を叩き込める。
向こうが隠れる手際がいいのはわかったけれど何度もさせるわけにはいかない。
素早く振るい刃が回転し敵の光を巻き込んで切り裂く!
1撃1撃がガリガリと削る斬り方でエポニーの体を木片に変えていく。
とはいえさすがに戦闘長。
硬くまだ平気そう。
「すぅ……ふぅ……いけます」
今度は低姿勢からのスタートでエポニーに斬りかかる。
エポニーは付き合わず足から硬質そうな鎧を飛び出させる。
剣フィランギを叩き折るかのような勢いで蹴り飛ばした!
剣フィランギはかちあった衝撃で折れる……ことはないが弾かれる。
しかし型の練習により力の逃がし方をアール・グレイは知っていたらしい。
うまいこと刃を返してそわせそのまま切り上げに。
「ぐううおおおおぉぉ!!」
今のは技術とパワーで無理やり持って行った!
エポニーの体を斬りさくが返す刀で蹴りこまれる。
単なる蹴りではなく人形の……しかも明らかに技術の詰まった蹴り。
「ぐはっ!?」
衝撃が鎧越しに入っている。
そのままエポニーは体を回し……
蹴り飛ばした!
今度はアール・グレイが吹き飛ぶ。
家屋を破壊し中に転がり込んだ。
「場所を変エタ。中ナラ戦イヤスイ」