二百十一生目 戦術
「待てやーー!!」
「殺すっ!!」
「持ってるもの奪え!!」
「チッ、あち、こちから、しつこいな!」
イタ吉は顔に笑顔を浮かべながら駆ける。
ランナーズ・ハイというやつかな。
とにかく襲い来る相手を片っ端から斬っている。
左右から迫る2体を飛びかかる直前に斬り払う。
ひるむだけで十分。
その間にイタ吉は抜けている。
今度は屋根の上から狙っている口から光放っているやつ。
顎を剣で跳ね上げ吹き飛ばす。
閉じるようにしてやればその間にイタ吉が抜けた。
そのまま何体か斬り伏せていると今度は横から素早いやつが猪突猛進!
「うわっ!?」
あぶなっ
イタ吉が必死に体をうねらせ剣ゼロエネミーを長くして振るう。
左右両方からどんどん迫ってくるやつらを足元を狙って振るっていく。
剣ゼロエネミーの切れ味はすさまじい。
全力でやればこういう時毛皮を貫き筋を傷つける。
そうするとほんの少し怯み緩む。
そこをイタ吉が駆ける!!
「ハッ、ハッ、ハッ」
イタ吉は必死だ。
本体の大イタ吉もいない今たいした戦力はない。
数体程度ならこなせるかもしれないが今の数は半端じゃないし。
迫り来た1体を切って転がし。
暴れ投げつける岩はイタ吉に追いつく前に切り伏せ。
闇の中から突如のびた爪に剣ゼロエネミーでつばぜり合い。
それぞれがコンマ1秒稼ぐほどの技。
しかしそれで大きく変化していた。
それだけあればイタ吉は遠くどこまでも駆けていく!
「まてーっ!!」
家の隙間のすっぽりはまりイタ吉がはまり追突する敵魔物たち。
その間にもうイタ吉ははるか遠くへ。
隙間の向こう側へと駈けて行き……
「ゴクロウ」
「ぬっ!?」
抜け道の目の前に目が現れた。
イタ吉がそれを避けれたのはほぼ運だ。
運とカンと油断のなさ。それが体をとっさにうごかした。
目から放たれたビームがスレスレをかする。
イタ吉が巻いていた白帯が一部焼き切れた。
なんとか抜け出してイタ吉はビームを出してきたソレと対峙する。
「あっぶねえ、なあ……! ちぇっ、運がない」
「運デハアリマセン。私ノ戦術デス」
人形……だった。
人形が街に入り込んでいる情報は受けていない!
潜伏していたんだこいつは。
人形は油断なくゆるりと構える。
「まったく、こんなコスいことで戦術とかいうなよな……」
イタ吉は大口をたたいているが内心ヒヤヒヤだ。
私にはわかる。
あれはああいう時の顔だ。
実際剣ゼロエネミーでどれだけやれるかわからないが……強い。
イタ吉がここから抜けられるビジョンが思い浮かばないほどに。
しかもちゃくちゃくと他の魔物たちが集まってきている。
「相手の重要物資を破壊と簒奪は戦イノ基本デスヨ」
剣1本でさばくには多い……!
イタ吉にヒア汗が流れた。
「最悪ゼロエネミーに物資持たせて俺はここで死ぬか……」
文字通り死ぬほど痛いらしいがイタ吉は3体のうち1体残っていれば復活できる。
だがそれはあまりに賭け。
剣ゼロエネミーだって脱出できるかはわからない。
「捕ラエロ」
一斉に複数の魔物がとびかかる。
剣ゼロエネミーに大盾になってもらって防ぎイタ吉は再度足を唸らせて駆け
「グーラ・カー・ラジャ・キサラギが命ず」
その外から高速で飛んでくる矢。
大量のそれが一瞬にして多く魔物たちを射抜く。
「大河王国の名において、盟友たるアノニマルースを陥れまいとする下賤な輩を、討て」
「「うおおおおおおおおおお!!」」
アレが間に合った。
援軍が……来た!
矢が飛びまくってとにかく撃ち込まれる。
「うおおおおおおっ!?」
イタ吉は驚くもののイタ吉自体には1本も落ちない。
分かっていても恐ろしい。
動かずにいられたのはイタ吉が場数踏んでいただけだ。
遠くにいた大河王国兵たちのスキマを塗って乗馬烏骨鶏が跳んでくる。
上に乗る人影が長い槍を振るい魔物を突き飛ばす。
そしてイタ吉の前に立った。
「ワタクシ、大河王国からの援軍、チルマルド・ファーエン・アール・グレイが来ました。アノニマルースの皆様、お久しぶりです。そして……」
黒気味の赤がさした髪色。
琥珀色の優しげな目。
美青年と呼ぶにふさわしい姿がそこにあった。
久々……!
私に昔直接命からがら依頼してきた子だ。
あの時のなんともない頼りなさげな雰囲気がずいぶんと引き締まっている。
グレンくん……いやグレンはカルクックの上から槍を人形に向ける。
「窮地に陥った時、助けられた恩を忘れるほど、我々は薄情ではありません。金竜の分けた尾を末代まで忘れぬように、我々がここで戦います!」
相変わらずことわざはよくわからないな!