二百十A生目 急速
戦争は確実に進んでいく。
少しずつアノニマルースに火の手が迫っているのだ。
出来うることなら街損壊率も下げたいのが人情というもの。
「例のアレはどうなってる?」
「連絡は済んでます。ただ、諸々の調整と準備で時間はかかるかと」
「仕方ない、今回は急すぎた。むしろ急ピッチでやってもらえて嬉しい限りだ」
アレはもしやれれば凄まじいことだ。
ただし国際的にかなり問題のある行動である。
だから皇国との兼ね合いや根本的な準備に時間がかかる。
皇国自体も動いているものの皇国が来る時は威信をかけ全力で来る。
その分先発隊すら時間がかかるのは連絡がきていた。
アノニマルースは耐えに耐え最後の猛攻で勝たねばならない。
それまで全員無事に生き残るにはやはり敵戦闘長を削るしか無い。
膨大な敵数全員倒すのは非現実的だ。
アノニマルースも全員を相手していないから持っているんだから。
大半は足止めのために壁や設置物それに兵器で食い止めていた。
骸骨兵士たち全員含めても普通に数で負けるというのが見方。
だからこそとにかくちまちまと端から叩いている。
真正面からぶつかりあえば……はっきりいって万に一つも勝てない。
骸骨兵が向こうの凡兵2体分強くてもその程度の差だと数で囲んで叩かれればおしまいだ。
魔物兵が敵の凡兵10体分強くても人形に放火されれば負ける上たくさんの相手に囲まれ続ければ危険が増す。
エースが一騎当千でも人形が複数くればしんどいし敵の兵器に勝てるほど甘くはない。
そこに陣形効果や地形効果……相性効果に戦術効果。
全部乗った実際の戦争の場は個人でひっくり返せるほど甘くはなかった。
まさしく神の1撃でもあれば別だが。戦争神とか朱竜とかの。
まあむしろ今回はばっちりされる側なわけで……
私含む神たちは多くが封じられたり役にたたない状態だったりする。
今足が極端に遅いナブシウの分神やたくさんの生命が入り乱れるってだけで勝手に蒸発しそうなグルシム分神は当然アテにできない。
それでも錬金術や呪いでもう街の防衛には役立ってくれているのだ。
多少はこちらも神々の力を出さないと人形各々がもつ神力だけで押し切られて終わりだ。
こっちのエース級は何名か神々の力に対抗できる超殻者だ。
それ以外も何名か神はいるしだからこそまだアノニマルースは墜ちない。
結界がずっと維持されているのも実は神の力がちゃんと込められているからだ。
さて。
ここまでまとめてまだ足りないものそれは。
もう何を隠そうマンパワーである。
質は足りている! 数がめっちゃ負けてる!!
スキあらば私……じゃないや剣ゼロエネミーは出動している。
それでもまあ足りていない。
イタ吉たちは駆けていた。
イタ吉たちの特徴として大きな1体と小柄な2体に別れ3体セットで1匹扱いという魔物だということ。
イタ吉たちの特徴はまさにこう言った事態に必要な数そのものだった。
「いっそがしい……! 俺を使いっ走りにさせやがって。まあ初日の乱戦よかだいぶマシだけれど」
そのうちの1体。
小さなイタ吉が地上の影を縫うように駆けていく。
ほかの2体も仕事中だ。
私というか剣ゼロエネミーが空を飛んで移動しているときたまたま見つけた。
通信兵や兵站兵だけではまかなえないようなことをしているらしい。
軍用の空間拡張済みバックをもっているあたり重要物資なのもうかがえる。
見かけたついでに援護しておこう。
そう思ってゼロエネミーに指示だしして近づけた。
「ん? ゼロエネミーじゃん、俺の援護に来たのか?」
まあ実際そうである。
肯定のために同行して……
むっ。
「ちょうどいいタイミングだ」
飛んできた何かを斬り落とす。
ナイフのような爪だ。
影から飛び出す敵の魔物たち。
「ぶっちぎる、手伝ってくれ!」
イタ吉が背後で4足をフルに回転させ風切る音が鳴る。
そして胴長の体を活かし一気に加速した!
もはや隠れることを意識しない爆音と土煙放つ速度の移動。
「ぐわっ!?」
「速い、逃がすかっ!」
もちろん私達も手伝おう!
高速で逃げるイタ吉はたくみにその体をくねらせる。
そうするとほんのわずかなズレで敵の攻撃を避けまたの間を抜け家屋のはざまを通り抜ける。
なら危険なのはそこじゃない。
廃語から追いかける追撃班だ。
「待てッ!!」
後ろから狙い撃とうと体の一部が弓のようにしなる魔物を……
斬る!
弦にあたる部分を傷つけ弓を打ち損じさせる。
「くそっ、やられた!」
そう殲滅する必要はない。
あくまで突発的な戦闘。
ここからはどれだけ妨害してちゃっちゃっと逃げれるかの戦いだ!




