二百九A生目 月解
戦いはもはや各地で起きている。
正面門は破られたまま修復もできず。
また敵が横からの攻撃を防ぐためにもあちこち動き回っている。
戦闘の前線が伸びてきているのだ。
コレは正面門の破壊そのものは成功したため圧力のかけかたを変えたと見られる。
やはり向こうはまとめてやられるリスクを取るよりも総数の多さを活かしてアノニマルースをぶんなぐったほうがいい。
ならばその分の数壁に張り付かせるのは正解だ。
実際アノニマルース側はその対策に手を取られている。
そして正面側から少しずつではあるが進行を許している。
……中に戦火が広がりだした。
幸いなのは避難はとっくに終わっていることか。
こうなってくると段々と最前線のラインというものが壊れてくる。
そうすると増えてくるのが散発的な戦闘。
バラバラに戦っているものたちが出て唐突な強敵強襲したりされたり。
つまり軍本部で制御しきれない事故が量産される。
大型人形たちは全員マークされ時には街外部で撃退しているが破壊にはいたらず。
大型と大型の大怪獣バトルは向こう側もうまみが薄いという判断らしい。
問題は人形たちだ。
全体把握させるほど向こうはあまくないし大きくもない。
戦闘長の証と言えそうなのはその姿か。
個性的な人形たちがいるのだ。
それはバルメラのように特別な見た目をしている。
バルメラも超遠隔射撃パーツが特殊だったし口調や戦闘の見た目も実際独特だった。
つまり個性を出すことができるほど優れている者たち。
間違いなく向こうの切り札だった。
「月解放軍ねえ……」
ジャグナーが難しそうに頭をかく。
数多く集まっていく情報たち。
月解放軍というのはローズクオーツの提出した資料に名前が載っていた。
バルメラの話したそれだ。
詳細不明。だが。
「本来の用途はアノニマルースにぶつけるためじゃないってか。ナメやがって」
ジャグナーが淡々と吐き捨てた言葉が物語っていた。
彼らにとってきっとこの後ある月の神たち……追放された邪神たちのために戦うのが本題。
アノニマルースは言ってしまえば前哨戦扱いだった。
それはあまりにも楽観視がすぎる。
実際に振るわれる猛威は末恐ろしい。
ただ彼らはあまりにもこちらを知らなさすぎる。
旧き神々はわずか数年単位のことだなんて小さすぎて見えないのだ。
「だがここが勝機だ。お前ら、やつらに一泡ふかせてやるぞ!」
会議室でジャグナーの宣言に各自軍部関係者たちが各々の声で同意する。
まだ翻訳は直らない。
それでもきっと……心は繋がっている。
戦争の進行は順調に進んでいく。
順調に攻め落とされているように見えるが実際のところは違う。
相手がめちゃくちゃ攻めあぐねていてこれだ。
正直ほとんど侵攻できていないようなものだ。
それほどまでにアノニマルースが堅牢な仕組みなっている。
踏み潰されることなく耐えていた。
それを行っているのがこの軍事会議室で成立できているのだ。
相手の侵攻を抑え操り逆に牙を剥いていく。
限りある骸骨たちと強力だが少なく疲れる魔物兵たち。
それぞれを的確な場に配置し続けられる手腕と翻訳が壊れた事もあると思って組まれていた作戦準備たち。
それらが今鋭く相手に刺さっていた。
「……ん……」
「ああ、そうだ。情報をまとめると事態は好転していない。だがおおむね想定通りだ」
「ええ、ジャグナー軍長。特に想定以上に死霊術兵たちが持ちこたえているのが大きいですね。ふつうの相手ならばしっかり勝ちを握ることも少なくないとか」
「思っていたよりも日々強化されたのが大きかったですね……」
「武装消耗は余裕がありますが、それは保たせる場合の話。より潤沢に増やせれば、それだけこの後の展開が楽になりますぞ」
「食料生産消費共に安定しているっす、足の早い食い物から消化しているっすよ。メニューが保存食ばかりになる前に終わらせたいッスね」
「食糧問題は士気と直結する……アンデッドたちはそれをクリアできるが、高い士気が維持できるわけでもない。冷たい保存食では士気が落ちる。特に避難所は治安にも直結するからな」
「作戦……書類に不備は少ない。誤字が6箇所見つかったが、判読可能範囲だ」
「……う……」
「やはり今の最大問題は散発的な戦闘か……おっと!」
各々報告をまとめていると再び地面が揺れた。
爆発音もとおくからしている。
……空爆もゼロにはできない。
とはいえ落とすこと前提で作戦やら仕組みやら組んである。
今おちたのも空中用ダミーだろう。
実質何もない空間に幻覚をはって落とすように仕組んである。
当然やるやつがいたら追撃が入って確実に本体は叩き落されるのだ。