二百二十四生目 無毒
ココからは怪しまれないように堂々と歩こう。
石の道をカムラさんとふたりで歩む。
ドラーグは私の影の中に潜んでいる。
ちなみにここまで共に来た乗れる鳥型の骨は置いてきた。
もう見た目からしてニンゲンの街に入れないからね。
まあおとなしくしていてくれるだろう。
「そうそう、演技の再確認しておきましょう」
「うん、ええと私が……」
カムラさんの提案に私も同意する。
周りにニンゲンがいない間にやっておかねば。
これの出来次第では強く疑われるだろう。
歩き続ければ道がいくつか合流したり馬車やらニンゲンたちが街へと向かって行く。
それに私達も紛れながら歩いた。
それにしても確かに馬車ではあるがくくりつけられている動物が鳥だ。
巨大な烏骨鶏で馬ほどの高さがありくちばしカバーがついている。
白い羽毛と一部の黒い地の対比が印象的だ。
はてどこかでみたような……
あ、あの鳥型骸骨の元ネタか!
[カルクック 古くから人と共生する魔物。 移動時の足や栄養豊富な肉と卵、真っ黒な骨は魔術媒体としても用いられる]
なるほど、既視感があったわけだ。
ニンゲン界では一般的な魔物なんだね。
さらに軽快に足音を慣らしながら進んでいく。
靴はもっと扱いづらいかと思ったが私に合わせてつくられただけあってもたつかず歩ける。
案外肉球の数まで確かめたのは意味があったのかも。
しばらくすれば開かれた門が見えた。
よかった、今はそこまで情勢が不安定だったりしないようだ。
大きく開かれた門から通行証を持った者たちが次々入っていく。
そしてその隣に数人並んでいる場所がある。
奥には屋内で衛兵たちと対面する場所が見えた。
あそこが通行受け付けか。
おとなしく何人か並んでいる後ろにつく。
徐々に列は減って行き……
さらに1人入っていったからあとはそのニンゲンと目の前のニンゲンのみだ。
暇なので馬車やニンゲンのながれをみる。
出入りがとてつもなく活発だ。
常に誰かが門にいる。
そのせいで目を通す衛兵さんたちが死ぬほど忙しそうだ。
今はラッシュの最中みたいなものなのかも知れない。
さてさて、そろそろ終わったかな?
「だから何度言ったらわかるんだ!!」
意識を列の前に戻した途端怒声が聴こえてきた。
なんだなんだ穏やかじゃない。
"鷹目"で視界を動かして覗いてみる。
「で、ですから――」
「そぉとで落としちまったんらって! つーこーしょお!」
うわあ、ベロンベロンだ。
激しく酔っている。
「んで、さいはっこーに金がかかるって? 色々書かんとだって? オメーなあ、ンなもんそんたくっつーやつでなんとか、ヒック、しろよ!」
「い、いえ、規則ですから! そういうわけには……」
「アアァッ!!?」
ああ、気弱そうな衛兵さんが胸ぐら掴まれている。
背丈もあるし筋肉も衛兵さんよりありそうだし……
周りの衛兵たちも『ああ、面倒なやつが来たな……』と言った様子で見守っている。
抜刀されたのならともかく男は丸腰で衛兵たちは鎧も纏い室内用の小剣も持っている。
つまりやろうと思えばおそらくは楽に拘束できる。
下手に拘束騒動になるのは面倒が増えるだけだろうしだからといって延々と半分何言っているかわからない酔っぱらいの言葉を聞き続けるのも大変と。
私達の後ろにも次々並んでいるのでこのままでは渋滞を引き起こす。
というかもうほとんどそうなっている。
「困りましたね……」
「うーん……ちょっと行ってきます、場所とっといてください」
「わかりました」
私は魔法を準備しながら1つ前の人の横をすり抜ける。
「すいません」
一声かけつつ向かった先では気弱そうな衛兵が胸ぐらを掴まれながら揺さぶられ怒声を浴びせられていた。
まわりにもふたり衛兵がいたがどうしようか……と様子見していた。
その場に気配を消してスッと入っていく。
トン。
酔っぱらいに触れた瞬間に光魔法"アンチポイズン"を発動させる。
そして気配を消したまま列に戻ってから弱く気配を戻す。
「え、あれ?」
「今……?」
「ん?」
衛兵たちは私とは断定できないものの動きがあったことに気づき酔っぱらいはタッチされたことにしか気付いていない。
首の後ろに一瞬手を当てた。
一瞬で解毒効果を送り込むために強化し変化させているからあれでも十分効いたはずだ。
赤みを帯びた酔っぱらいの顔がみるみるうちに素へと戻る。
まさにシラフだ。
そして次はみるみる青ざめていく。
「あ、あれ? いや、ええと……その、すまない、なんだか悪酔いしていたみてえだ。その……あ、頭冷やしてきます!!」
「あ、ちょっと!」
ピュ〜! と擬音がつきそうなくらい見事な逃走を見た。
衛兵の胸ぐらつかんでグラグラさせまくっていたからほとぼりが冷めるまで街に近づかない気だろうか。
掴まれていた衛兵さんは反動でいまだグラグラしていた。