二百六A生目 変身
対峙するのは改めて向き合う。
互いにスキを探るように地上へと降り立った。
「ここでわたくしの新おひろめをすることになるとは、あなた、ツイてますね!」
「アン?」
ローズクオーツの見た目は前とほとんど変わっていない。
それは本来おかしかった。
ローズクオーツはたまった能力上昇値で次のトランスを工場で行ったはずなのだから。
ローズクオーツの全身が輝きだす。
その光はトランスのものじゃなくて……錬金の輝き。
「わたくし全力フォーム……メイクアップ!」
「チイッ」
一瞬で姿が変化するローズクオーツ。
それはまるで封じていたものを開く瞬間のように。
封じられていた力が戻るように。
ローズクオーツの体が大きく変わっていく。
今までは低い頭身だったのが伸びていく。
細身の体になって行き足はないままだが鋭いシルエット。
そして腕も長くなっていき顔も幼さが抜けて凛々しくなっていく。
そして肩のあたりから伸びていくもうひとつのパーツ。
ゴーレムの石としての質とテテフフライトというすさまじく加工に向いた宝石。
それを保ったままなびくように布地のように伸びて。
腰下からドレススカートのように美しく広がる。
まるで前と全然違う雰囲気ながら……同じ輝きをともした宝石の目が美しく敵を見つめていた。
「さあ、やりますよ!!」
「ヘエ……雰囲気が違ウジャン」
人形はふかく構え直した。
ローズクオーツがさっきまでの圧とまるで違うからだ。
油断できない相手と認めた。
「私は月解放軍戦闘長がヒトリ、音速のバルメラ! オマエノヨウナ相手を討チ取ル者!!」
「ローズオーラさまのゴーレムがひとりローズクオーツ! ローズオーラ様は絶対に返させてもらいます!!」
ふたりの鋭い視線が交差する。
先に動いたのは人形側……つまりバルメラ。
理由は単純。
「速攻!」
バルメラが生きるのは高速機動の勢いだ。
逆に言えばそんなに待っていても有利対面になることがほとんどない。
身長差もほぼ埋まってしまったし。
ほんの一瞬のあとローズクオーツも動き出す。
このままでは真正面からバルメラにぶん殴られるからだ。
「さっき見ました!」
ローズクオーツがスカート部分を大きく広げなびかせつつ飛び上がった。
当然バルメラはあわせて上方向に傾き。
空中で迎撃……になるはずが。
「ガッ!?」
「見えないところに注意ですよ?」
スカートのはずの部位から足が飛び出した!
その足はテテフフライトのピンクカラーながら違和感がすごかった。
先端が槍のように鋭いのだから。
吹き飛ばされたバルメラは地面を転がって体勢を立て直す。
足らしきものはスカートの中に飲み込まれた。
「クソッ、腕を伸バス動キ、足ニモ出来ルノカ……サッキマデハ無カッタノニ!」
「それだけじゃあないですよ!」
ドレススカート状の部分もローズクオーツの体。
だからこそそこからニョキッと矢先が顔を出す芸当も出来る。
一斉にあらゆる方向へ金属の矢が連射された!
「ンナッ!?」
攻撃としてかなり理不尽なこれを強いられるのはバルメラ。
バルメラが1本1本しっかり光の込められた矢を避けきるのは今の体勢では不可能。
"防御"を固めシールド光を出すものの矢が次々と刺さり少なくない貫通打撃をバルメラの体に叩き込んだ。
……今のローズクオーツが敵に言うはず無いので考えると。
おそらくは錬金術による生成した矢だ。
前の時は自身の体と合成して戦い方を変えるのがメインだった。
その場でストックしておいたもので自身を変質させるというもの。
しかし今のは生成した勢いで発射していた。
おそらく空魔法"ストレージ"で鉄塊かなんかを取り出しておき自身の肉体の方に錬金して隠しておく。
錬金してもスカート状のガワ裏側なら見えない。
多分そういう隠す力がそもそもあのスカート状部分に錬金されている。
そして錬金においてまざった物質の分解は基礎だったはず。
すぐに生成しなおし槍を生んで……
その槍が生成の勢いで射出。
前まではそんな挙動しなかったしトランスしたことで勢いの調整なんかが出来るようになったのか。
少なくとも新しいローズクオーツのお披露目としては満点だった!
「ナメルナッ!」
しかし飛んでくる矢をしのぎきると人形が再稼働する。
今度は矢につかまらず足を動かせた。
地上を飛ぶようにターボし駆ける。
それはさっきの空中移動よりも明らかに機敏。
細やかな動きでローズクオーツの矢を避けだした。
「当タンネエ!」
「でしょうね!」
しかしローズクオーツもただいたずらに連射していたわけじゃない。
これはある種牽制だ。