二百三A生目 呪怨
私はすぐにローズクオーツに追いついた。
その機体はものすごく目立つのでやむなしだ。
……それはドラーグやノーツのような大型とは違った。
あれらの大きさは背丈と体積をそのまま加算し大横綱の相撲がとれるような大型種だ。
生物そしてゴーレムとしてただしい。
しかしローズクオーツが乗り込む……むしろ組み込まれているのはまるで違う。
まるでスカスカ。
折り畳まれているときはまるで気づかなかった線のほそさ。
それが代わりに背丈へ貢献している。
ローズクオーツがもともと入り込める程度には隙間があったのだ。
あと巨躯なのもある。
最初の時もっと黒く縮まった何かにしか見えなかったが……
黒布羽ばたかせ空を飛ぶそれはまさしく空からやってくる死神に見えた。
スケルトンとしての顔。覆われて多数補強されている体のローブ内。
全身からしたら異様な背中からの巨大な白い翼。
「う、うわー、飛んでる! 飛んでるー! これっ、浮いてるじゃなくてすごく飛んでる!!」
ローズクオーツが叫んでいる間にも高速で戦地へと駈けていく。
空を自由に飛行するその姿は地上からも見えるらしい。
もちろん敵味方識別の白い帯も。
「な……んだ、あれ、味方……だよな?」
「最新の情報収集、急げ! 援軍でいいんだよな!?」
「禍々しい、あれが敵の兵器か!?」
「う、か、体の動きが変に……!? あの空飛ぶアンデッドが現れてからおかしいぞ……!?」
敵味方双方からさんざんな評価を受けている。
しかし動きが悪くなったのは大事だ。
なぜならこのアンデッドは……概念を持つ。
とある呪物の塊でしかない小神のかけらを浄化したものを組み込んである。
正確には浄化できていないが。
呪いに指向性を持たせてある。
まあ……グルシムという神だ。犬っぽい神の。
彼をとある事情で倒したさいに得たものを利用してある。
正義の死霊術師であるユウレンはかなり慎重に兵器運用してもアンデッドゴーレムと味方が苦しまないように調整を重ねてあった。
アンデッドを、そしてこの子に宿る意思を、自身を苦しめるような作りはプロにとって絶対看過できないので。
「ようし、飛び回って一気に攻撃しますよ!」
ローズクオーツは知ってか知らずかその効能を引き出していく。
死神の目が輝き口から怪しいうなり声。
そして。
「キエエエエエエエエエエエェェェェェ!!!!」
「ヒャッ!?」
叫び。
ただそれだけで状況が一変した。
「ぐあああああぁっ!?」
「ぎゃああぁぁ!!」
「う、うげっ!?」
呪詛攻撃の広範囲ぶちまけ。
本来すべてを犯すしんえんのそれは混戦だろうと敵と味方を明確にわける。
邪悪さではなく自らの力として振るわれるそれは確かに見た目の邪悪さからは比較にならないほどに……クリーンな存在だった。
まあ相手陣営は大変なことになっている。
精神を攻撃され錯乱したりダウンしたり。
そうでなくても精神への攻撃で一気に士気が落ち武器を構える力すら落ちている。
「い、いまだ!! 突撃!!」
「「うおおおおおっ!!」」
「ま、まずい、まだ部隊は……!」
一気になだれ込む味方軍。
そしてロクに防御スキルすらつかえず吹き飛ばされていく敵軍。
もちろん魔物たちならともかくアンデッドたちにすら蹂躙されている。
呪いとは全方向にトゲのついたボールのようなものだ。
それをぎゅっと握りつぶしトゲを飛び出させてからぶん投げ破裂させるのが使い方。
しかしそんなの生物の味方がいる環境ではできない。
そしてユウレンは握る手が痛むのは許さない。
慎重に、1つひとつ丁寧に摘んで慎重に呪いをトゲを作り直し。
生え直させただしくみんなの武器になるようにと。
完全に立て直された新たなる形の呪い。
それは死神の槍として大きく化けた姿になっていた。
持ち手のある槍は敵を穿ち味方を守るそのもの。
つまるところこいつは空の騎士と呼ばれる類のものだった。
「す、すごいです! この力があればみんなを……ひゃっぁ!?」
スカイナイトが突如稼働しその身揺らめかせ腕を振るう。
瞬時に構成され生み出されたのは影で出来たような肉厚の剣。
襲い来る脅威をよけ叩っきった。
今のはローズクオーツが何かしたわけじゃない。
自動迎撃だ。
斬り落としたのは……極太の矢。
「あ、脱出!」
それを目視した瞬間ローズクオーツは飛んで逃げることを選択し……
あたりが大爆発した!!
仕込み矢……まるでミサイルだ。
斬ってもあたっても爆破するように仕向けられていた。
私の指示は間に合わなかったけれど……
「あっぶっなぁーい!」
それで倒せるほどうちの子は甘くない!