二百二A生目 睡眠
ふたりは協力して動かないアンデッド制作をはじめた。
これで根を詰めすぎたことはしなくなるだろう。
さて。
私はそれの影の立役者のそばに飛んでいく。
扉の外の物陰。
そこにはひとりの執事。
カムラさんがそこにいた。
カムラさんは顔を抑え出ないはずの涙をこらえるようにしていた。
カムラさんはユウレンの執事であり……優秀なアンデッドだ。
見た目は完全にニンゲンなのが特徴。
涙は出ないけれど確かに……
カムラさんは今泣いていた。
「ユウレン様……! まことに、良かったです……!」
彼は深く語ろうとしないだろう。
けれどわかる。
ここにローズクオーツをよこしたのはカムラさんだ。
ユウレンが表で活躍するほどにカムラさんは常に側で付き添っていた。
けして目立たないように。
今回もそういうことだ。
カムラさんは教育書としてアノニマルースを普段は支えてくれている。
けれどもっとも教え導いてきたのは言うまでもなく……
そこには『制作者』と『制作物』の上下関係を超えた絆が常にあった。
「わあっ!? 動いた!」
中の様子も順調なようだ。
こっそりまた元の位置に戻る。
そこでは先程までただ闇の中に溶けたアンデッドが稼動を始め立ち上がりだしていた。
それはただ立ち上がるだけでわかるほどの圧。
他のアンデッドとは一線を画している。
……が。
「あ、あれ? 動かない!?」
「そもそもどうやって起動を!? その子を立ち上げるには、ニンゲンの魂ぐらいのパワーが必要なはずなのに……!」
「えっ、そうなんですか!? あーはは、な、なんでなんでしょうか……」
「ちょっと!? なんで動くかわからないってのが一番こわいのよ!?」
ユウレンの叫びにローズクオーツはアンデッドの中で苦笑いしていた。
どうやら搭乗したらしい。
魂は……ローズクオーツが実は転生者なのでいかたのだろうか。
ただそれでも起動しただけ。
何を操作しようと動きがない。
エンジンはかかったけれど前進しない状態だ。
「ど、どうなっているんですか、これ……!?」
「今見るわよ! ええと……あ、ああー、これってもしかして……」
「ど、どうしたんですか!? なにか深刻な異常が?」
「いえ、逆で……ものすごく単純に、セーフティブレーキがかかっている……」
「え」
つまりアクセス踏んでも無効化するように遮断してあるだけ。
シンプルなロックシステムゆえに外部から組み込んであって。
中からは見てわからない仕組み……というのを後から知った。
エンジン動いたけれどバッテリー止まってるみたいな状況らしい。
「ど、どうすれば動くんですか!?」
「外部から刺激的なエネルギーを流し込めば……ってまだ作ってないわよ、その操作レバー!」
「じ、じゃあ1度そこから作らないと……」
なるほどユウレンが見ている背中のあそこか。
たしかに細い空洞がある。
ゼロエネミー、変形!
ゼロエネミーを打撃用棒状に変形。
「あらっ?」
それガッチャンコ。
中に入り込めばゼロエネミーの差し込んだほうから感触が返ってきた。
このまま……
「ええっ、それってローズオーラ様の!?」
「やっぱり!?」
エネルギーを注ぎ……こむ!
幸い活動エネルギーは出発前に毎回雷撃でもらえる。
雷撃使いの魔物はそんなに特筆するほど珍しいわけではないのだ。
今ここでロックを外しバッテリーを稼動させるショックを与えるくらいらくらくだ!
棒ゼロエネミーからほとばしるエネルギーの光が中へと注ぎ込まれていく。
雷撃のようなその光によってピリッとアンデッド全体が震え。
途端に何かが動き出すような甲高い音がなりだした。
「う、動いたっ!」
ゼロエネミーは抜いてその場から離れる。
アンデッドの機体は様々な魔物たちの遺しものを清め紡がれている。
しかしそうだと思えないほどに音は重く金属がなるように響き。
ふいに思い出したかのようにカラリと乾いた軽い音が鳴った。
巨体が……動く。
「わたくし、行ってきます!」
「えっ、まさかいきなりなの!? わっ!?」
ユウレンが疑問を言うのが早いか一気に足に力をため……
上へ跳んだ。
天井をぶち抜けて。
「うええええぇぇぇぇ……!!」
「ローズクオーツ! まだあんまりこの子のこと、知らないじゃないー!!」
「げ、現地で覚えますーーー」
空へと吹っ飛ぶかのように飛んで行った。
それを見てユウレンは……
とても久々に心から笑い顔を浮かべた。
日に照らされたアンデッドゴーレムを見ながら。
「あんた、ワタシの代わりにあの子たち見といてくれる?」
ユウレンがこちら……つまり剣ゼロエネミーをみる。
それはもちろんだ。
ここから勢いよく飛び出すとユウレンは気が抜けたように倒れこむ。
「ワタシ、ちょっと寝るわ」
「ユウレン様……!」
従者たちもやっとよろこべた。