二百A生目 死霊
インカの戦いで門前を取り戻せたものの全体の動きとしてはまだまだだ。
さらにあのあと大型人形たちがまた来て後退指示。
インカたちは戦果を誇るのもそこそこに戦略的撤退を強いられた。
とはいえ押して押されてに引き戻せたともいう。
相変わらず壁や地形からの侵入もくろみも多いし前よりもだいぶ押されている。
それでも有利盤面といって差し付けない。
それに大型人形たちが無理やり突撃しない理由もわかっている。
ガッツリ引きうちして大型魔物なんかで迎撃されたくないからだ。
ぶっちゃけこっちがドラゴンロア大砲見せたのも大きい。
そしてドラーグは間違いなくレアなドラゴンロアの使い手だ。
超強力な札である大型人形たちをそんな賭けに投入するほどかれらは馬鹿じゃあない。
彼らはとにかく時間をかけつつこちらを完全に封殺する。
そのための布陣だ。
ジャグナーもそれを読んで無理をさせられない。
攻めせめで落としきるのがアノニマルース軍は得意だが仕方ない話ではあった。
今までの戦闘経験ほとんどがそうだったので……
全体としてはそうでこことしては今日も今日とて地面が揺れている。
地下戦闘というのが繰り広げられてるらしい。
地面より下の戦いがホームラウンドの者たちがしのぎを削っているのだ。
アノニマルース軍もそういう魔物にはことかかない。
目に見えない戦いながらギリギリのしのぎあいがされているそうだ。
そして私は今そんな戦いたちを影から支えるところにいる。
ここの部屋は暗いしやたらキャンドルが立っている。
趣味の不気味な像や弟のハックが作った像なんかも飾られていて。
そしてなにより1つひとつに複雑な意味合いが込められ能力を加速させる儀式的な配置がなされている。
「う、ぬぬ、ぬぬ……」
汗だくでうなっているのは仮面のうような部位を頭にずらしてつけている女性。
ニンゲンである……ユウレンだ。
そして死霊術師でもある。
そうアノニマルース軍10万以上の大軍を支えるアンデッドを操る死霊術師のメインがひとりである。
「はぁっ! はぁっ!」
ユウレンは疲れはて地面にもたれかかるように崩れる。
周囲の従者や同業が水を差しだし汗をぬぐう。
あっ水じゃないなこれ行動力の回復薬だ。
そんな極限の状態で運用している……わけではない。
何せアンデッドたちは多くが軍部でコントロールされている。
生んだ後は修復まだ。まあその修復工場の死霊術師たちも限界まで酷使されているのだが。
「ユウレン様、一度休みましょう!」
「ウロス大術師様がおられない現状、我々だけでは……!」
まわりの死霊術師たちが必死な様子でそう言い放つ。
なにせユウレンだけは休んでないのだ。
この過酷で命を削るような集中と祈りの作業を……汗が全員おおいつくし何度も倒れるような作業を。
昨日からぶっ通しでやっている!
「こいつが……動いたら……!」
ユウレンがそうして向かい合う相手。
それは巨大で闇に溶けるナニカ。
ただしそうして全力を常に送り込み制作し稼働するようにゴーレム術式を組み込むアンデッド。
「ウロス師匠が骨組みをつくって、ワタシがここまで完成させたこれを、動かせれば……! うぐぎぎぎ……!」
もはやニンゲンが出す音というよりもアンデッドのそれ。
食いしばるように唸って自分の中にあるもの全部ひねり出そうとしている。
それでも目の前のアンデッドゴーレムは目を輝かせない。
私は一応この様子を見に来たわけだが……
もう見ているだけで心配になる。
それほどまで体に悪そう。
「お邪魔します!」
突如として飛び込んで来た1つの小さな影。
それは天然光の中ならまさしく宝石のように輝く体を持つゴーレム。
私のつくったゴーレムであるローズクオーツだ。
「ローズクオーツ……だったかしら……? 一体、どうしたっていうの……? 今ワタシ、見ての通り忙しいんだけれど……」
「その忙しい案件で来たんです。話、聞きました。まだ未完成のアンデッドを動かそうとしているんですよね!?」
「そ、そうっよ……悪い……? こんな中途半端で動かそうだなんて無謀って、言いに来たのかしら……!?」
明らかな言いがかりだ。
ユウレンがそれほどに追い詰められているということでもある。
それを周囲の者たちは察してユウレンを抑え休ませようとして……
「違います!」
……ローズクオーツが。言われた側がむしろ正確に把握しそして否定した。
そうでなければいけないと思って。
ローズクオーツの目は力強くこんな暗い場所でも輝いて見えた。
「わたくしは、ローズ様のためにあなたを手伝いに決ました!!」