百九十九A生目 螺旋
「オラオラオラオラァ!!」
完全に突撃系攻撃だけで片っ端から吹き飛ばされている。
数千いるこの部隊でも数の利が生かせないようにインカ兄さんたちは見た目と違い丁寧に立ち回っていた。
「人形たちを出せ!! お前たちじゃ相手にならねえよ!!」
内側に入り込み。
指示してつぶされる前に素早く別の場所に入り込み。
「ローズを、妹を返せよ!!」
……!
インカ兄さん……心配かけてしまっている。
けれどその立ち回りは一瞬たりとも雑たりえない。
「続けーー!!」
「「おおーーーーー!!」」
もはやすさまじい激闘。
間違いなくうねる蛇の突撃陣形は疲れる。
足を止めたら袋叩きだし陣形効果も薄れる。
あの周囲からでも攻撃を弾き飛ばしている姿はあくまで動き続けているからだ。
それでも彼らは止まらない。
私も……剣ゼロエネミーも手助けしないと。
剣ゼロエネミーは飛んで変形。
形は前と後ろ両方に2つの刃。
全身凶器のブーメラン!
悲鳴すら置き去りにするようにぐんぐん飛ばしていく。
陣形のちかくまできて討ちもらしを貰い斬ったり。
「な、二重……!?」
「やばい、なんとか助かっぐはぁ!?」
そのまま横やりしようとする敵をくじいたり。
「それ以上やらせん! むっ!? 別の攻撃、早い、くそっ」
「そこだぁぁぁぁ!!」
「なっ」
正面に回り込みインカ兄さん率いる部隊が少し大柄のそいつを跳ね飛ばした。
「ぐおおおおおっ!!」
インカ兄さんはあえて私というか剣ゼロエネミーには声をかけない。
わかっているだろう? そういいたいかのようだ。
もはや感謝や指示はいらないわけだ。
互いが互いのじゃまをする相手を切り伏せ。
戦場をわずかな時間で瓦解させていく。
インカ兄さんについていく面々もかなりの異常さだ。
こっちは剣だから息とか気にしなくていいしエネルギーもちょくちょく飛んでくるエレキ系の攻撃をもらって回復している。
けれどみんなはそうじゃない。
いっさいずっと戦い続けるなんて考えていない恐ろしいまでの猛攻。
時間としてはそれほどたっていないというのに……
いつの間にやら戦場に立っている面々が彼らだけという空間が生まれた!
「合図、出せ!」
「押ッ!」
ふと足を止めると彼のひとりが空に向かって昼でも明るい華を咲かす。
いわゆる合図用の信号弾だ。
門前の敵たちはただ全員倒されたわけじゃない。
数百以上が地に付したがここにはもっといた。
彼らは真に恐怖したのだ……インカ兄さんたちに勝てる未来が見えないということに。
開いた門を前にしての全軍後退。
犬死するのを恐れた判断だった。
同時にほぼ人形たちの判断としてありえないため現場判断というやつだが。
一応軍というの敵前逃亡というのは最もダメと聞いたが……これはもう戦略的撤退というやつだろう。
そしてかわりにこちらは。
「信号だ! 突撃!」
たくさんの魔物軍とアンデッド軍が門の向こう側から出てくる。
場を確保し大量の捕虜をゲットできるチャンスを活かさないわけない。
インカ兄さんたちは全身からとんでもなく発熱し周囲の空気が歪んで見えた。
「あっつい……! なんとかやりきった、集団戦はこの熱との戦いだな本当に……!」
インカ兄さんの全身鎧は体につながった針が正体。
ゆえにそこから放熱する役割も負っている。
魔物たちって発汗が苦手な種が多いので汗っぽい熱ではないんだよね。
そして当然熱が凄まじくこもりやすい。
今もわいたヤカンのようになっている面々を冷却能力持ちが氷や風で冷やしている。
隊列にもともと組み込まれているのだ。
「お見事ですインカローズさん!」
「なんとかな……ローズの剣に助けられた」
インカ兄さんがそういってこちらを見る。
なんとも言えない想いが込められていながらもとても力強かった。
みんな何かを抱えてこの戦いに挑んでいるんだ。
「元狩猟長の実力は顕著ですね。これだけの手勢で大軍勢を追い払うとは」
「今は鍛えて武を極める旅路って感じだから、鍛えた力が役に立てるなら、それに越したことはないさ。それに……」
軍の魔物に板書き持参で話しかけられるインカ兄さん。
器用に書いて見せてそのあと私の……剣ゼロエネミーの方を見る。
「うちの1番の妹をさらったコイツらを、赦すことはない。この力は妹を助けるためにあるッ!」
ギリギリと顔をしかめ地面を踏みしめてそう宣言してくれた。
なんというか……こんなに想ってくれていたなんて。
言葉にされて実感した。
目の奥で熱く炎が揺らいでいるのがみえる。
こんなに剥き出しな感情は久々に見た。
これがインカの……
戦いは、続く。