二百二十三生目 拒絶
2体の蛾を倒した。
あとは……
「ぬおおおっ、このこの!」
「くう、こんなショボそうなドラゴンに!!」
あっちで泥仕合を行っているドラーグと蛾だ。
あ、蛾の言っていることがわかるようになっている。
"観察"と"言語学者"能力の影響だ。
ポカポカと音がしそうな殴り合いだ。
しかし実際は互いに殴打のラッシュ。
実際はドラーグの方が格下なのだろうがそもそも蛾は近接攻撃が得意そうには見えない。
結局何度も殴り押されよろめいたところに取っ組まれた。
蛾相手に肉を裂くような強烈な掴み技。
ニンゲン相手だったら関節がキマっているだろう。
背中すごい曲がっているけれど大丈夫かなアレ。
「あだだだだ!!!」
「よいっしょ!」
そのあとぶん投げられキレイに入った。
倒れたがピクピクとはしているから大丈夫だろう。
うーんあんまり虫は出血量多くないよなあ。
あんまり血を味わえなかった。
じゃあ交代!
(はいはいー)
よし、主導権をドライからツバイこと私に戻した。
蛾たちを治療して……と。
さらに"無敵"もかけてと。
「剣と斧の手入れは軽くで大丈夫ですね。ローズさんが作ってくださったこの2つは実に良い働きをしてくれます」
「あ、やっといてくれたんですね。ありがとうございます」
カムラさんは剣と斧の手入れをしてくれていた。
血を拭き取りはこぼれをチェックして軽く研いでおく。
他にも問題がないからチェックし終えてやっと鞘に戻す。
これら一連をちゃんとやることで武器の持ち方や切れ味が断然違うのだとか。
さすがに武器の扱いはカムラさんの方が遥かに慣れている。
ならば私は言うとおりにするだけだ。
その後も改めて走り続ければどんどんと魔物たちと遭遇する。
とは言えドラーグやカムラさんそれに私……というより"私"の剣の敵では無かった。
"近接攻撃"による高威力になる補正もあるがそもそも雑に振り回しているだけでバンバン切り裂いている時点でおかしい。
カムラさんみたいに相手も『土の加護』を入れたカスタム武器でしかも本人もうまいとまるで勝てやしないが……
魔物たち相手ならば問題なかった。
ドライに主導権を切り替え。
切る、切る、斬る!
ただそのたびに剣より自分が血だらけになるのやめてほしい。
ドラーグに水を出して貰って洗ったり聖魔法"レストンス"の浄化能力をイジって清潔にするように変化して使いキレイにした。
本来なら細々と魔法記述をかかなければいけないが再現方法を覚えたから楽だ。
昼は眠りニンゲンたちをやりすごし夜にひたすら走り込む。
たまに入る"以心伝心"での連絡で群れとやり取りして頃合いを見つけて帰って手伝いをして……
数日後。
ついに石でしっかりと舗装された道が伸びている場所が見えた。
その先にあるのは外壁に囲まれた建物たち。
あれが目的地だ。
時が朝を過ぎるまで休んで待つ。
"魔感"で感知すると少しいった先から結界が貼られている。
そろそろ準備をせねば。
「この先に結界もあるみたいですし、丸薬飲んで着替えちゃいましょう」
「わかりました」
「ええと、薬は……」
私とドラーグは丸薬を飲む。
……においが強烈だ。
「うわ、口に入れたらめちゃくちゃくさい!」
「飲み込んだのにくさいね……」
ただ幸い水溶性のにおいだったのか水を押し込んだら収まる。
薬独特の鼻が曲がりそうな悪臭だった……
さらに私とカムラさんは着替える。
近くの木々の裏でカムラさんは手早く着替え私は"進化"してから着替えた。
ホリハリーじゃないと着られないからね。
きっちり額の目を隠す。
少しは慣らしたつもりだがちょっとこの感覚にはなれない。
毛皮オン服。
チクチク。
カムラさんもすぐに着替えて戻ってきた。
元の燕尾服は私が回収しておく。
空魔法"ストレージ"で収納だ。
「ああそういえば。少々もったいないですが、服に軽く砂ぼこりをつけておきましょう」
「ああ……! あまりに汚れがないのも不自然ですからね」
カムラさんに言われたとおりだ。
というわけで不自然にならない程度に砂ぼこりをつけて払ってを繰り返す。
全体的に『歩いてきた』ようにみえるようになったら出発した。
周りに誰もいないことをチェックしてニンゲンの道へ入る。
ドラーグは影の中へ。
そのまま歩いて……
結界。
本来なら私たちを拒絶してしまうらしいが。
少し緊張してそうっと触る。
一瞬だけグラリときた。
僅かに視界がブレたが1秒もしないまに元に戻る。
よ、よし。
一瞬だけおかしかったがなんとか大丈夫そうだ。
そのまま中まで入っていけた。
成功だ!
カムラさんは当然平気でドラーグも弾かれていない。
侵入の1歩目成功だ。
安心のため息をついて再びあるき出した。