百九十七A生目 正門
戦いは進んでいく。
夜に入ってもこちらはアンデッド軍をメインに前へ出していく。
むこうもむこうで壁を建築し穴を掘って守りを固めている。
「やれやれ、向こうは夜、そんなに動く気は無いということだけは良いことだな」
ジャグナーはその熊頭をかく。
鎧を外してある。
作戦会議室はみんな疲れ切っていた。
当たり前である。
日が出てから沈むまでたっぷりとした戦争行為が続けられたのだから。
国と歴史によってはこれを前線で1年以上続けるのだから気だって狂うだろう。
多くの軍人魔物それに雷神もいる。
「…………」
「よし、また会話は板書きしていくぞ。この初動、休む時間はない」
ここからの会話は全部板書きだ。
「まず戦闘は、不利ながらも近郊しています。向こうとしては初日に門を落としたかったでしょうが、群れるアンデッドの波状攻撃で戦線疲労を重ねています」
「避難はほぼ完了。漏れがないか総ざらいしている段階です。足の早い魔物たちに限り漏れが多いのは、明らかに避難誘導より早く逃げたのだろうと考えられていますが」
「補給と補充は初日から想定範囲内の消耗です。ただし空爆で一部倉庫が焼けました。大事な物は地下にあるとはいえ、少しずつ一般食料などを削られています」
「あとは…………」
「ふーむ…………」
一般的な情報から入り細かな戦況へと話が進んでいく。
今の時間の奇襲読み。
想定外に対する事前の策。
情報は揃い言葉と言葉は踊っていく。
ここでのやりとりが今日ひいては明日生き残ることにつながっていく。
みんな手は抜けなかった。
そしてこうしている間も。
「伝令! 伝令!」
「なんだ!?」
伝令係で通信部隊から受け取った内容を書いて持ってきた。
それによると別方向から霊体系の魔物が接近しているとの話だった。
「やはり来たか」
「大丈夫だ、それは策が売ってある、そうだな?」
「向こうができることはこちらも出来るからな!」
口々に話しつつ対策を板書きで素早くまとめる。
迅速に指示を出し連絡係に指示書を手渡した。
その時間実に2分。
「さすがに1日中やってりゃ慣れるな……命懸けのやり取りだったのに、嫌な感覚だな。それに、現場もこちらが遅れる前提で動き出すことが多い。効率化は良いことだが……それが原因で足をすくわれないようにしないとな」
「そのために我々がいるのです、ジャグナー軍長」
アノニマルースの軍の長。
だから軍長とジャグナーは特別に呼ばれている。
本当の役職名はメチャクチャ長い。
「よし! アンデッド軍だって無限じゃあない、それにそんなに兵力が削られること自体が問題だ。今のところ鎧の致命傷で瞬時離脱効果も相まって、誰も死亡者はいないが、余談は許さない状況だ。アンデッドの損害率を抑えつつ、死傷者ゼロ! それを目指すぞ!」
「「了解」」
ジャグナーが板書きしつつもその声の迫力で引っ張り上げた。
みんなの返事も音で言うならあまりにバラバラだ。
それでも心だけは間違いなくおなじ方を見ていた。
夜は小競り合いが繰り返されて互いの疲弊を誘った。
こっちは幽霊部隊とアンデッド軍が本領発揮きてむこうの陣地を荒らし……
向こうはむこうの幽霊系でこちらの妨害や壁越えを狙ってきていた。
夜中のやり取りは静かだからこそ恐ろしい。
気をつけなくてはどこかで命ごと情報を奪われる。
夜は目立たないこそスレスレのやり取りが行われていた。
そして日がまたのぼる。
2日目の防衛戦だ。
「夜中のうちに情報を集めた。ほんとアイツらはよくやってくれたよ」
アイツらとは正式名称がぜんぜん決まらないとして有名なアノニマルースの暗部だ。
キミらの正式名称へのこだわりなんなの……?
とはなるがとにかく情報集めをしてくれた。
なんとかかなり戦場に並ぶ情報詳細が出てきた。
前回は前にでてきた相手を片っ端から見聞しただけだ。
全軍の詳細は不明というのが実情だった。
今は全軍何が何体分いるのかが書かれているし実力調査もされている。
やはりというかなんというか人形そして大型人形は最強たちだった。
これの人形軍は必ず人形の軍門にくだっているという点で確実とされてはいたがチェックされた形だ。
そしてだからこその物量はかなりげんなりするものだった。
向こうも完全に勝ちに来ているため後方支援は厚くしてある。
今までの町襲撃と違いしっかり食料もあるし替えの武装すらあるようだ。
兵站がしっかりしているのはかなり残念なお知らせでもある。
粘って自滅が狙えない。
もっと脳筋かと思っていたのに。
そしてもう一つ残念なお知らせ。
「「っ!?」」
突然の大きな衝撃が作戦室どころかアノニマルースの各地を揺らす。
「なんだ!? 被害は!?」
「大変です! 正門が破られました!!」
「何!?」
まさしくいま書きなぐってきた手書きを見せる連絡係。
正面扉崩壊。
それはずっと恐れていたことそのものだった。