百九十六A生目 竜撃
ランムさんが突き上げられた。
しかも本体によって高く空にだ。
そう本体。
「ガガガガガァァァァァ!!」
長い体を持ち上げ巨大な顔を喰らおうとランムに迫る。
しかしランムもただ苦しく飛ばされているわけではない。
爆発直前に足方面にエネルギーを集めていた。
アクセサリーの防御能力が最大稼働し吹き飛びながらもジャンプのような姿に。
それは不格好ながらも……
たしかに加速していた。
「あと少し……!」
ランムが高くたかくとんで下から迫る者に目を向けず。
追いついてくるかもしれないその瞬間。
横からの影。
「来た!」
パシッと何かを掴むランム。
横から来たなにかに気づかず空を食う大型人形。
「すみません、遅くなりました!」
「謝っているのか? 初期位置からだいぶ動いたから致し方ないさ、それより……持ってきたんだね」
それは光を受け輝く白き鱗の姿はどこからでも目立った。
ドラーグだ。
相当大きいがそれでも10%くらいか。
100%が100mなので10m以上である。
巨大怪獣揃い踏みだ。
もちろん言葉はつうじていない。
だがあまりにドラーグが情けない声を出すのですぐわかったらしい。
……この土壇場でこんな曲芸をするなんて。
ドラーグの体にはたくさんの結晶みたいな鱗が生えていてそれの一部を掴んでいた。
そのままドラーグの上まで駆け上がる。
「設置します!」
そしてドラーグは手ぶらではない。
大型人形から少し離れた位置の高台。
そこに降り立って巨大なそれを地面に下ろす。
ドラーグがエネルギーを通すと自動的に地面に固定されるよう光が生まれた。
「この巨大な大砲……頼み通り、たしかに!」
通信部隊からの念話で行われた作戦会議。
それにより事前にもし交戦になったさいの次善策としてあったもの。
ドラーグ宅急便の運んできたもの……それは。
あまりに巨大な金属の塊。
それは本来移動使用が一切想定されていない建造物。
巨大な設置型防衛用大砲……
「発射準備、完了したので、許可ください!」
ドラーグが手信号をランムに送る。
軍用の一般的な動きのものだ。
ドラーグは幸い器用な手先があるのでできる。
同じ皇国の月組であるランムは瞬時に動きの意味を察した。
この大砲を撃つという意味を。
「このクラスの……普通ではない兵装の使用許可は現場の国家政治が許可をおろす必要がある。そして今現場にいるのは私だけ……いつもはわたしが許可をおろされる側だが、な」
大砲のエネルギーが溜まっていく。
そうこれは巨大な球を火薬で吹き飛ばすそれではない。
人形本体もどんどん近づいてきている。
ランムさんが刀を振るわず全身を固めて屈み同時に防御系のスキルを発動したらしく全身が見えるシールド光に覆われる。
そして指を敵に向けハンドサイン。
「許可する、放て!!」
「いきまーす!!」
ドラーグが勢いよく大砲のスイッチを叩く。
大型人形が大きすぎてあまりに目の前が来ているように見えた。
実際はその勢いと大きさでそう見えているだけだが。
それが一瞬で光で消し飛ぶ。
あまりに強すぎる光は陰影すら飲み込みまるで何か恐ろしい生物が鳴いたかのような発射音。
それは近くの生物の鼓膜を破壊する。
ランムは知識で知っていたが故に防御態勢をとっていた。
「うひゃーーー」
ドラーグも嫌そうに耳を塞いでいる。
つんざくような音で火薬と違う方向で響く。
剣ゼロエネミーは衝撃波だけ気をつけて物陰に隠れていた。
光がおさまるとそこの景色は一変している。
大量の腕と大型人形の肉体タチガ穴が空き砕け吹き飛び塵とかして。
完全にちぎれた大型人形の本体が地面へ落ちていた。
「う、うわぁ……」
「ひどく驚いているようだが、あなたたちドラゴン一族の咆哮を真似た兵器、ドラゴンロアーブラストだろう……? なら結果は当然だ」
朱竜討伐時にも使われた大砲。
それの自国内で放つための格落ち版。
取り回しと価格面を改善し何よりも自国を焼き尽くさないように手心を加えられた兵器。
いやこれで抑えている時点で基本使用禁止は当たり前すぎる……
「とりあえず、撃破完了です」
「凄まじい……間近で見たのは初めてだ」
撃ちこんだところが荒野でなければ凄まじい被害になっていだろう。
「とりあえず、撤収しましょう……この情報を伝えないと」
ランムがハンドサインで帰還を示す。
なんというかこれで情報が少しは集まったし相手の戦力をひとつ削れた。
まあこの大砲を撃っちゃったという点はあるけれど。
この大砲ひどくコスパが悪いことはそのままで1回撃つと再度撃つのにフル点検いるんだよねえ。