百九十四A生目 月光
「なんでわたしがこんな所で戦争の真似事をしなくてはいけないのですか……!」
オウカランムさん。
月組で何かとアノニマルースと縁があるニンゲンで若い女性。
なんか仕事をよく丸投げされている気配がある。
「くっ、早く来てもらわないと……」
戦場の正面ではない場所。
横に広がった地点でも戦いはある。
大規模な軍対軍ではなく……
個人対個人。
「こんなところにも、人形がいるだなんて!」
近くの岩が大爆発と共にランムさんの背後が爆発する。
慌てて飛び退きランムは体勢を整えた。
向き合ったその先には……
大きくうねるミミズのような体。
しかして頭の部分はしっかり人形のそれ。
地面から生えておりあちこちから追加で腕のような部位が生えだす。
……これは元のものはどこか別の国で街を占拠していた個体だ。
街を占拠し龍脈のエネルギーを受けて普通の生物なら消し飛ぶ力を持って無理やり成長。
こうして巨大な敵として成る。
「ガガガッガッガッ、見つけグァガガッ!!」
それは人形の人格破綻とセットで。
とりあえず調べられる範囲では原型すらなくなっている。
ゴーレムでもリスクがないわけではないのだ。
それでも彼らはなんらためらいなくその命令を遂行するのだが。
アノニマルースのゴーレムたちは絶対嫌がる自信がある……
そんな自分を無くしてまでたどり着いた姿がコレだ。
色々と報われないがそのためにとんでもないもんを人形神は作り出したものだ……
感傷はともかくとして思いっきり襲われているオウカランムさん。
急いで手に持っていたスーツケースを解錠する。
「はあ、本当は敵勢分析につとめるつまりだったのだが……今手持ちのこれでやるしかないか」
スーツケースに手を突っ込むと明らかにスーツケースより大きなものが出てくる。
それは鎖がまきついて覆っている刀。
一振りすると鈍い音がなり遅れてジャラリと金属音。
「越殻者としての力をここに」
巨大人形は一切気にかけず小さな存在を全力で踏み潰しにかかる。
それは戦場においてはある意味信じられなほどの……
「解放」
スキ晒しな行為だった。
刀はうごめき鎖が弾け飛ぶ。
大量の鎖は再び繋がりランムの全身覆い隠す。
踏み潰すかのような生えている腕たちは全部高速で動く鎖に寄って弾き飛ばされた。
「ガギャ?」
「月光斬」
鎖の内側から飛び出したるは黒いなにか。
大型人形が気づいたときには遅かった。
腕が何回も斬り刻まれ何本も断ち切られていく。
鎖は小さくなりランムさんが刀を握る拳にまとわりついた。
ランムさんの全身に少し装飾が増えている。
そのひとつひとつにすさまじい力を感じて身を守る概念で全身鎧を着込んだかのようだ。
「この武装、小回りするから持ってきて正解でした」
「ガガガァァァァ!!」
あまりに纏う力が圧倒的に変化し大型人形も警戒し威嚇する。
その刀は刀身がまるで見えなかった。
ついでにそこから剣ゼロエネミーが追撃し一種であたり一面に斬撃の嵐を繰り出す。
一瞬身構えたランムさんだがすぐに解いた。
「白帯……それに確か、いま捕虜になっているという話のローズオーラの剣。なぜここに? 助太刀……と思っていいのか?」
そうだよそうだよーとは言えないので剣ゼロエネミーの変形で答えていく。
剣ゼロエネミーは形を変えて巨大化していく。
刀身を太く厚くして叩き壊すように。
「なるほど……本体はいなくても動くのか。じゃあ、少し任せました」
とりあえず斬れる範囲浅く斬っておいた。
剣ゼロエネミーがね。
こういうダメージの蓄積はのちのち耐久力削り以上の効果をもたらす。
「ガガガがァァ!!」
「知性はまるで感じられない。飢えた獣のほうがまだ理知を感じる……」
剣ゼロエネミーとランムさんは叩きつけてくる腕たちの乱撃を避けるために横へ跳ぶ。
何十もの触手腕が地面ごと叩きつけてきていて荒地の地面が破砕されていく。
当然デカい破片が飛び交うわけだがランムは涼しい顔だ。
受ける必要すらなく体に当たる前に弾け飛んでいる。
あれが全身にあるアクセサリーの効果か。
やはり見た目だけではないらしい。
そして眼の前に直接来た相手に。
「月光斬」
また柄しか見えない刃を振るう。
軽く震えばランムよりもずっと巨大なはずの相手がバラバラに弾け斬れる。
距離や位置もメチャクチャだしどう考えても見えないだけの斬撃じゃない。
「この刀はバカ相手に向いているんです。だって……」
しかしてなにもひるまない。
残りの腕が急襲を仕掛け「月光斬」
気づいた時にはその腕たちも無遠慮に何十回も斬られ吹き飛ばされ砕かれていた。
「バカには見えない刃なので」