百九十三A生目 月組
降り注いでくる隕石。
守るものはすでに途切れていて。
あとは。
「ナアアァッッ!!」
私というか剣ゼロエネミーがここから去るだけだった。
「よし、作戦通りだったな」
「…………」
「おう、雷神もお疲れ」
剣ゼロエネミーと同時に来たのは雷神というあだ名の魔物。
ジャグナーは見晴らしのいい塔で成り行きを見守っていた。
元々上からの大きな隕石魔法は囮だ。
いや今戦場がそれで吹き飛んでいるんだけれど……
少なくとも最初は大型防御魔法を発動させるために様子見していた。
発動させようとすれば逆探知出来るのであとはふたりでとんではねて切り裂いてきたのだ。
もちろんやろうとしたら信じられない速度が必要でジャグナーでは全くできない。
その点雷神くんは声が小さい以外本当に優れている。
まさしく初速から亜音速で途中から音速域に突入していた気がする。
剣ゼロエネミーも負けておらず戦場のあちこちで切り裂き……
場をくずしていたらちょうど指示していた人形も発見。
ぶっ刺して逃げてきたわけだ。
今頃隕石のせいで空を舞っているだろう。
ただの魔法じゃなくて儀式型戦略魔法である。
発動自体を阻止しないとなんかフィールドがえげつない崩壊をすることのだ。
私の地震系もある意味戦略級だが実はアレ止められやすい。
まず前方でしっかり受けられたら後ろに伝播しないからね……
やってくるとわかっていたら超低空に浮くという予防系の戦術魔法は普通にある。
なのでやっぱり空からなにか降らせるのが色々効果的になるのだ。
まあそういうことで効果的な破壊が出来た。
雷神は2足のライオンみたいな魔物で武器をたくさんくっつけたものを背負っている。
それで戦場相手にどれでも有効な手で攻めれるのだからかなりこうあう戦場では強いのだ。
「やはり剣も意思疎通が可能らしいな」
「……ん……」
「まあ、雷神、おまえよりかは意思疎通が簡単かもな」
ふたりがこちら見ながら話す。
どうやら言葉が通じているかのテストも兼ねていたらしい。
実際人形はともかく結界破損なら雷神が駆け抜けるだけでも崩せた。
ちなみに剣ゼロエネミーはかなり気難しく私からの指示じゃないとかなり嫌がる。
普段からこんなに聞き分けがいおわけではないのだ。
「あれでしばらくは時間が稼げた。こっちの魔法班もかなり消耗したし、何より人形が1体吹き飛んだのが確認されている。やつらのリソースを削っているぞ」
「……んん……」
「分かってる、こっちの備蓄だって無限じゃない。あんな大型魔法を何度もぶち込めば、あっという間に魔力回復のための回復薬が尽きる。転移も限度があるしな……」
他者から『なんで会話成立しているかわからない』『もはやテレパシーって言ってくれたほうがマシ』と言われる雷神の会話。
一応声を張らないのも理由はあるらしいけれど……
そしてなんやかんやあのチームグレンくんたちも言葉と木板で会話していた。
途中からパッション優先で伝わっていたけれど。
なのに雷神とジャグナーはそんなものはない。
ついでにいうと翻訳設備はまだ回復していない。
だけれどなぜか互いにある程度言いたいことがわかる。
なぜこれが成立しているかは謎だが1つ大きなことに目的意識が共通なことがある。
複雑な話はわからずとも何をしてどうやりたいかがハッキリしていれば共通認識になるのだ。
それと通信部隊の念話だ。
通信部隊による念話は意味を伝えて受信側の脳で情報処理する。
だから言葉が通じなくとも大丈夫。
常に通信部隊から現在必要な念話情報が回されているので把握する情報は似通う。
すると判断はだいたい同じになるわけだ。
ただまあ……それにしては共有できている会話情報が多すぎる気はするけれど……
なぜか特定の相手とだけ波長があって簡単に会話が通じるんだよね雷神。
「これで敵の肝心の防御性能はガタガタだ。人形は強大だからまともにぶつからず、必ず位置を報告して高力量のメンバーを誘導させなくてはならない」
「…………う……」
「ああ、言葉が通じれば色々楽だったんだがなあ、今は1度他を通さなくてはならんから、ラグが大きい」
悩むようジャグナーがうなる。
戦場というのは情報が命のようにうねっている。
それらをスムーズに伝達できるかであっさり生死が決まると昔ジャグナーが語っていた。
私は戦場とかあんま詳しくなくて……
「ま、現状なるようにななっている。目指すは完封だ。避難も順調で、皇国の応援も遅くない間に来る。月組からの情報だから、確かだ」
皇国の月組。
少数精鋭のエリートたちで同時にアノニマルースを見張る役目もある。
ただしこういう時は心強い味方になるのだ。