百九十一A生目 悪意
彼らはここに迎え入れられた時ボロボロだった。
正確にはホルヴィロス以外が疲労困憊。
ただしく治療する暇もなく塔から脱出した彼ら。
かなり無茶な逃げ方になったらしい。
そりゃまあ転移できないだろうし向こうは命を狙ってくるだろうし……
「あの塔が、まさかほとんど崩れるとはなあ……」
何度目かのわからないグレンくんのつぶやき。
彼は頭に指を突っ込んで悩んでいた。
どうすればよかったのかと。
「塔は1番上だけが切り離されていたな」
「空に向かって飛んでいました。おそらくあそこにいます……」
「月っていうのは、どこまで遠いんだろうな」
ホルヴィロス以外の3人がたしかめるようぽつりぽつりと話す。
どこかとりとめない会話。
しかし当事者からしたらよく分かる会話。
私の体と人形たちは切り離された塔の頂上にあるらしい。
しかと空に高く飛んでいって。
回収大変そうだなあ……どこまで行ったんだろうか。
「なんで……勝てなかったんだろうな」
グレンくんが深い溜め息とともに何度かわからない言葉をはく。
みんな同じ言葉を言うように深い溜め息をした。
それは本当に私がアウトすぎるのだがそれを言える私がここにいない!!
「アイツを置いていくことになったのは、難しい判断だったな」
「ホルヴィロスさん、あれからずっとおかしくなっちゃってますし……ボクも、つらいです」
「お前たちは、アイツと出会って長いんだろ? 俺はアイツについて、ほとんど知らない……どんなやつなんだ、アイツは。明らかにタダモノじゃないのは今回の件含めてわかるが」
みんなが私の話をしている間にもホルヴィロスだけはこの場そのものにいない。
奥の看護室の職員仮眠室にいる。
まるで巣のようにツルが張り巡らされ誰も見たことがないらしい。
……私は直接見ていないけれどもみんなの話だととんでもない焦燥具合だったらしい。
帰る最中なにも手がつかないほどに混乱していたらしいし。
親のケルベロスと連絡してうまくいかなかったのかもしれない。
とにかくホルヴィロスは精神的に深くダウンしていた。
分神がそうなのだから本体はもっと暴走しているかもしれない。
毒沼の迷宮は大荒れかな……
こっぱずかしい私の話をするみんなの話を聞き流しつつ。
どうにか明るくできないか考えるものの。
念話も無理だからかぁ!
「ボク、ローズさんに命を救われて入ったんです」
みんなが口々に語っていく。
「俺は幼い頃に1度出会って、その時に思ったんだ、運命の出会いだったって」
私との出会い……そして思い出を。
「ああ、ついでに俺も。元々は迷宮で狩りをしていたが、その時お人好しのアイツに出逢った」
それはまるで故人に対する語りだと私は感じてしまった。
実際似たようなものだ。
こうなってしまったからには。
「ローズさんは、誰かを助けることはいつもしていても、自分がピンチに陥ることはめったに無いんです。むしろひとりでも、やれることは全部やってしまうから」
たぬ吉思いを告げる。
自らのアクセサリに触れて。
私が作り渡したソレを。
「ローズさんがこの街を描き、導いてくれました。まだローズさんは取り戻せます。だから、ここで戦い抜きましょう。出番が来たら、必ず」
「敗北の責任は必ず取る。アイツは……今回のターゲットだからな。普段は面倒な依頼は受けないが、今回は別だ」
「……ローズ……」
みんなが覚悟を決めてくれる中。
というか私きくの気恥ずかしさが増す中。
グレンくんは力強く息をしてゆっくり立ち上がり。
歯を食いしばるように前を向いた。
「ローズは、今も捕らえられて苦しんでいる。俺たちが間に合わなければ、どうなるかわからない。それに、まだそのまま行っても、なんだかわからない……終末の獣とかいうものに、攻撃が阻まれてしまう」
終末の獣。
その言葉が出た瞬間私はないはずの心臓が縮み上がる感覚を覚えた。
あのときは正直それどころじゃなかったから深く考えれなかったけれど……
私の中にあんなのあるのやばいよね?
蒼竜を詰めたい理由が増えたが今はアクセスできない。
蒼竜もおそらく裏手で多くの戦いを繰り広げている。
五大竜にしか……月の魔物を抑えることはできない。
今かなり嫌な感覚でクライマックスに入りだしている。
敵側がうまくいき私は謎の負債。
こちらは打開の手があまり見えておらず結果的に他任せ。
今までの冒険としての形ではどうしようもないかもしれない。
そういった大きな悪意が牙を向いているのがはっきりわかった。
私とアノニマルースとみんな。
すべての最大の危機がココにしまっていたのだった。
歴史に残る戦いをここにしるす。