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百九十A生目 調理

 当たり前だがアノニマルースは敵の大軍が何日かけて迷宮を歩いているのを、ぼーっとみていたわけじゃない。

 彼らは突如探知可能範囲内に現れていた。

 そして突如襲撃を始めた。


 ワープの可能性は先に考えられ否定された。

 まず大規模なワープというのは純粋に難しい。

 私でも接触した身近なみんなをワープさせるぐらいだ。


 数を数えるのも馬鹿らしくなるほどの大軍を運ぶ力はない。

 そしてもし転移儀式を行い大部隊を転移させるとして……

 事前にどちらの地域でも儀式が必要かつ転移時にどうやったって観測できる空間の歪みがわかる。


 まあその他あらゆる観点からありうる点が片っ端から潰されている。

 いきなり世界中からここにきた。

 まるで世界がそうなっていたかのように。


 これは世界中に人形が派遣された謎とも兼ね合う。

 ただ私は予測していた。

 あの塔の空間だ。


 ああいう異空間を作れるのならばつなげる次元をつくることが出来るだろうということ。

 このアノニマルースまでの道のりが凄まじく山奥から谷に入ったところにある迷宮入口に進まないといけなくて遠いけれど……

 表の世界と神域と迷宮をつなげられるあの人形の神がやっていたなにかならばおそらく裏技的に移動できる。


 大軍団が歩いて移動し続けて空間と次元の穴をくぐって出てきたのなら唐突に出てきたのは……かなり不服だけどわかる。

 そういう神業をするのが神という理不尽な存在だ。

 大神となるとかなり理不尽。


 塔の空間そして設置してある時空渦メチャクチャ異質だった。

 そのぐらいはできるだろう。

 あと時空渦空間も。


 それとこれは神ゆえの感覚だが……

 寿命感覚がない神が多いため1つのものの制作に信じられない時間を楽に費やす。

 これに専念してたら自分の人生あっという間なんだろうな……という考えや感覚がそもそもないのだ。


 なのでずーっと寝ずに数年……数十年……数百年。

 そんな単位での何かをするなんてことは特別じゃない。

 あの人形の神もきっとそういうたぐいだ。


 空に舞う私……じゃなく剣ゼロエネミーとアヅキ。

 数分もしないままに敵が全滅していく。

 明らかにアヅキの動きが跳ね上がってるのなんなのか……


 他の軍もいるのに凄まじく戦果に差がある。

 というかアヅキは正確には軍隊所属ですらない。

 

「主のための料理を作りそこねたんだ、全員今すぐ墜ちろクソが」


 5匹の飛行魔物をまとめて貫き返す刀で追加で1匹拳で叩き落とし魔法で風の刃が遠い1機の飛行機を落とす。

 全方位から飛んでくる狙いを自らが操る風でそらし矢も弾丸も魔法も別の相手へ運んでいく。


 そんな彼は料理担当。

 今は空を燃やし尽くしている。





「ひとまず落ち着いたか……休憩が貰えるらしい」


 アヅキはその手甲をはずす。

 何体殴り飛ばしたのかすでに使用痕が凄まじくなっていた。

 当然腕にも負担は来ているだろう。


「今のうちに修理に出さないとな」


 地上へ降りていくアヅキに私もついていく。

 もちろん空にはまだ敵がきている。

 ただ向こうも無策で出せばなんとかなるというターンはすぎた。


 ゆっくり接近し煽るように遠隔から攻めて帰っていくのだ。

 これをされるとこっちは対空警戒にずっも意識をさくはめになる。

 戦いは相手が嫌がることをやった方の勝ちだ。


 それはともかく地上では次の戦いのために控える部隊がアヅキたちを迎えていた。

 剣ゼロエネミーもピカピカにしてくれている。

 このあとは……みんなのところに行って欲しいな。






 戦争は3割の戦闘員と7割の後方支援で成り立つとも言われている。

 こう言ってはなんだけれど……

 前に出ている者たちがどれだけ切った張ったしても規模が大きすぎると大差はない。


 戦術で勝って戦略で負けたみたいな話はそういうところから出てくる。

 世界を守る戦いで主人公が敵ボスを倒せても星を爆発させられたら負けなのだ。


 では互いに何を削っているかと言えばリソースである。

 大群がうねりどちらの要を破壊できるかにかかっている。

 こちらは守るべきものがたくさんあるし向こうは攻めるために用意した機械や統率に必須な人形たちがいる。


 なので今空中防衛戦に勝利したとしてもアノニマルースの裏では暗い雰囲気と対抗するための怒気で溢れていた。

 ここは看護室。

 私はここまで剣ゼロエネミーに移動してもらった。


 ホルヴィロスとグレンくん。

 たぬ吉にクライブ。

 彼らはここにいた。


 ホルヴィロスが彼らに適切な治療を施しそして……沈んでいた。

 みんなの空気は最悪である。

 私……じゃなく剣ゼロエネミーがきても気にもしないほどだ。


 理由はわかる。

 彼らの気分は他人がどういうのであれ失敗したというものだからだ。

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