百八十六A生目 戦争
私の意識は塔が壊れていくところで途切れる。
途切れるんだけれど。
『危なかったぁ〜』
私は意識の移植に成功していた。
原理としては"分神"である。
ただ自力で外部肉体を保てなかったので……
かわりに剣ゼロエネミーに憑依させてもらった。
緊急時用の一発ネタ。
これ意識を移せたからといって大したことはできない。
こんなこともあろうかと……となんでも準備しておいたものが全部吹き飛ばされたからね。
はあぁ……かなりまずい。
剣ゼロエネミーをひっそりみんなについていかせたが……私の本体はおきざりだ。
意識がないためどうなっているかわからない。
そして……ゼロエネミー側も大変なことになっていた。
剣ゼロエネミーに移すのに苦労したから私が気を取り戻すのはしばらくたってからだったのだが……
「ああもう、こんなタイミングで翻訳機が壊されるだなんて……!」
アノニマルース未曾有の言語分裂だった。
アノニマルースは元々翻訳機を通じてあらゆる種族の言葉を繋げていた。
隠された地にある巨大な装置。
「どこから攻撃を受けたのやら……いやまあ、遭遇した人形神とやらじゃろうが」
私のスキルは言語を司り翻訳するものがガッツリある。
そして機械は私のスキルを元にして作られていた。
……私からアクセス介入して内部を食い荒らしたんだ。
現代においてトロイの木馬というウイルス概念はない。
それでも被害に気づき食い止めた九尾博士たちはすごかった。
今凄まじく頭を抱えうろついているけれど。
「ラン博士! データ取れました! 修復作業にかかれます!」
「本当か! でかしたバローくん!」
ラン博士……つまり九尾博士の元に来たのはバローくん。
この機密の詰まった部屋にたずねられる数少ない人物で博士の助手をしている。
持ち込んだ大量の紙束が深刻なエラーをよく示していた。
「それよりまずいんです、今この状況で、迅速にココまで修復できるかというと……」
「くっ……どれもこれも厄介なもんじゃ! 人員をかき集めても、こんな専門的なことを任せられるやつは、わずかしかおらんしのう……!」
「それでもやるしかないですよ! だって今……」
ゴオンと。
連絡用に繋いであった回線に映し出されたテレビ。
そこには今煙を上げる外の光景が映し出されていた。
「攻撃されているんですから!」
このあとの歴史に残る大事件。
アノニマルース人形襲撃防衛戦。
世界でも類をみない大規模の襲撃が……今始まっていた。
剣ゼロエネミー単体で出来ることはたいしてない。
独立して浮き敵を斬ったり守ったりであり念話1つ使えないのだ。
スキルが私のものが使えないから仕方ないんだけれど……
だがそんなこと言っている場合じゃない。
私ができることをやらないと私の体を取り返すとかやるまえにアノニマルースが吹き飛ぶ!
私のスキルを使わなくてもアノニマルースは全体が稼働するように作られている。
ただしそれはあくまで1つの補助輪が破損した状態でこの不安定な一輪車を走らせるようなもの。
エレベーターが壊れて階段と坂で移動するようなものだ。
ついでいまは階段に瓦礫が落ちているしエレベーターは補助電源で動くはずがそれも壊れたのだが。
『ローズのスキルで共有されていたものが、一通り使えないと来たか』
『ワープの使える魔物たちに回収してもらえて本当に良かったよ』
ここは作戦会議室。
ジャグナーの向かいにはなんとかアノニマルースに帰れたグレンくんがいた。
他の面々も別室にいる。
……クライブもいるらしい。
緊急だからとはいえよくきてくれたもんだ。
そして彼らは言葉を交わしていない。
ジャグナーは唸るようなクマらしい動作と声が響くだけで。
グレンくんはニンゲンらしい複雑な音階が場をかき鳴らすだけになるからだ。
ただしアノニマルースでは積極的に普及していた文字。
皇国での一般的な言語文字を木板に書きなぐり互いに見せ合っていた。
戦場では悠長すぎるが日常会話ならなんとかなるレベルだ。
『無事でなによりだ、ローズ以外はは』
『ローズを助けられなくて申し訳ない』
『話を聞く限り、あの場で出来ることはない。大丈夫、ローズも無策ではないだろう、それに位置もローズと翻訳機をつなぐ関係で体内になじませていた装置が、位置を把握している。ただ、今はその翻訳機が故障中なんだが』
私へつなぐということは私から繋げられるということ。
それがハッキングに利用されたのはなんともではあるが……
私の体の位置が未来的にはわかるのはよかった。
会議室には最新の戦闘情報が貼られていく。
ここからはアノニマルースを防衛するための作戦だ。