百八十四A生目 捕獲
聞き覚えのないのに聞いたことのある言葉。
祝福……?
私はいつか祝福を授けられた?
祝福とはこの終末のあかしなのか?
なんだか……考えるほどに頭が痛む……
一体この記憶はいつどこのものだったのか……
今の今まで記憶を忘れていた。
痛む頭で話の続きを聞く。
「これでお前たちも無理にでも実感させられただろう。あれはそういう類の呪物だ。本人だけは……なんとも言えない表情だが?」
「みんな、大丈夫!? あれって一体!?」
「ローズオーラ……お前にはわからなかったのか……?」
驚愕の声がクライブから漏れるように聞こえた。
おそらく私に聞こえようとしていない声。
「ろ、ローズ! こっちは大丈夫! 多少驚いただけだよ!」
「そ、そうですよー!」
「……」
ホルヴィロスは何も言わない。
逆にそれこそが雄弁に語っているのと同じだった。
「そ、それより! 何でもいいからローズを離してもらおうか!」
「ふふ。出来るものなら、やってみるといい。もうここまできたら、私にも止められない」
「ッローズ! 今すぐ助けるからね!」
ホルヴィロスが意を決したようにそういってくれる。
それを合図にみんなが様々な攻撃を人形神や背後のモニュメントに投げつける。
が。
「当たらない!?」
「さっき私もやったけれど……幻影みたいに手応えがないんだ」
「実際のところ、終末の獣の本来の力というのには驚かされてばかりだ。まさか、攻撃の次元すら引き上げてしまうとは」
「……えっ!? じゃあこれは……!?」
「そうだ。お前の力、終末のあかしによる『本来の』力がここにある」
「本来の……って、それって……」
なんなんだこのチートは。
幻影を斬るかのように攻撃はすり抜けていく。
これが無理やり引き出した私の力から来るものなのなら一体どうすれば……
「クソっ!」
「さて、お察しの通り、この作品は終末の獣を、終末のあかしを持つ者をとらえる装置だ。ソレ以外の性能全てを削ぎ落としているから、他の相手を捉えることはできないのだがね。この作品の良いところは、終末の獣と自身を同一だと誤認させるところにある。捉え、全力を引き出させ、誤認させる。それだけでこれほどの力を得られるのさ」
「ええ……? なにそれ、私も知らないんだけれど……」
「それでも、その無尽蔵のエネルギー排出は終末の獣の一端を引き出している。そのエネルギーが、私には必要なのだ」
「そうか……あれは……」
無尽蔵のエネルギー。
たしかに私は効率以上になぜかバンバンエネルギーが補充されて放てるなとは思っていた。
スキル以上に無から有を生み出すような感覚。
ただ……何も確証はなかった。
わざわざ今原因を追求されたから初めてわかっただけで。
「ローズさんを、どうする気なんですか!? その力で、一体何を!?」
「高貴の復権を」
突如声の温度が下がった。
今までは絶対的な立場ながらどこか優しげすらも感じる。
時間までの暇つぶしらしい語り口。
しかし今開かれた目はゾッとするほどに冷たかった。
人形神の顔は造り物ながらとても精巧で表情もある。
なのに突然そういった生物らしい温度が表情から消えた。
「ッ!?」
「先に勘違いされるといけないから話しておこう。この獣を使い、世界に終末を呼び込む気はない。終末そのものなど、我ら全てを無意味に陥れるのと同じだ。それがどのような終末であれ、受け入れる気はない。だからこそ、この世界に、気品というものを取り戻させる」
「どういうことだ……? 世界を人形で襲撃していて、終末を呼び込まないなどと、そんなことを?」
「民草がどのようになるにせよ、興味はない。が、目をそらすのにはあまりに優秀だったぞ? 今もいくらかの戦場がつくられている。あの5大竜も、厄介な戦場の神も、注意を広く他に割く必要が生まれていたからなぁ。この塔へのアクセスもやつらは禁じているとはいえ、力ずくでこられてはかなわん」
「まさか、本命からそらすためだけに世界を襲った!?」
「ああ。安心しろ、私はどこぞの凡骨である魔王なるものと違い、世界を滅ぼすことなど目的にない」
人形は必死にあがくみんなを無駄なあがきと見下しながら……
今度はこっちへと向き直った。
みんなは……遠いけれど必死な顔で睨みつけているみたい。
「なんて……やつだ……!」
ほんと捕まってすまない……なんなんだこのワケのわからない証は。
「それだけではない。見つける必要があったからな……隠された終末の獣のあかしを。全作品に、探知をつけていた。標準装備なため、作品たちも自覚はない。同時に、追跡機能もな。一度探知したものは、マーキングするようにしておいた。やはり丁寧に破損体をもちかえったからな、多くの相手をスキャンするのは簡易だったよ」