百八十二A生目 終末
身体が浮いた。
針の翼を展開しても移動できない……!
まるで磁石に引っ張られるかのように勝手に空中で高速移動しだす。
「ちょっ」
魔法が……練れない!?
なにか魔法の力も全部引っ張られている!
あっ、だから飛び制御できないのか!
「このっ!」
窓に当たる前にイバラを伸ばす。
このまま吹き飛ばされたくない!
イバラが壁にひっかかり私が窓から外へ飛び出す。
「うぎぎぎ……がッ!」
イバラが引きずられる。
怪力とかそういうんじゃない。
神力ごと引っ張られている……これは……神の力で現象を起こされている!
「ウッ!!」
イバラが耐えきれずちぎれ私がすっ飛ぶように引っ張られる。
だめだ……対抗しようと神の力を練りたいのに。
相手にそれすら持っていかれている!
「うわっふ!?」
そして突然空中で静止した。
内臓が飛び出るかと思うほどのGがかかって全身に力を込める。
……拘束とけないなあ。
周囲を見渡すと私を中心に薄い光が広い範囲に伸びている。
見た目は結界だけれど私を中心に伸びているから拘束系トラップなのがわかる。
背後にはなにか宗教的みたいな巨大なモニュメントが見える。
首を後ろに傾けて額の三ツ目で見ている。
スキルが……行動力が使えない。
正確には使おうとした瞬間に霧散していく。
何か持っていかれるようだ。
かなりマズイ。
私の足裏から必要のない汗がダラダラ流れ出す。
4足なのにむりやりバンザイみたいな姿勢にされているし。
喉が急速に乾いていき鼓動がイヤに高まる。
今、私は無力だ。
嘘だろうこんなわけのわからないデカい装置で私ひとり完全に封じられるとか……!?
さすがにこんなもの想定外だ。
さっきからずっと暴れもがいているけれどうんともすんとも言わない。
「……ぐああぁ!」
力が抜けていく。
息を整えまた暴れるけれど全身が痺れるように光が走ると力が抜けていってしまう。
イバラも伸ばせない。
「ぜ、ゼロエネミー!」
私の声に呼応して剣ゼロエネミーが鞘から飛び出る。
よかったゼロエネミーは動ける!
ズバズバと周囲を切り払って。
「……手応えがない!?」
光を纏おうとすると私の力なので霧散してしまう。
けれどそのままでも剣ゼロエネミーはかなりの切れ味だ。
まず私の周囲……そして背後の謎のモニュメントも。
斬り裂いたがどこも手応えがない。
まだ硬くて切れないほうが現実的だ。
全部幻でも見ているというのか。
「……戻ってきて」
最悪分断されることまでは読んでいた。
そのための作戦も共有してあるから今頃みんなはちゃんと動いているだろう。
ただしこんな神を力づくで捉えられる装置なんてもの想定できない!
"鷹目"が機能すれば全景を見られるのに……
とにかくとんでもない規模の仕掛けなのはわかった。
下が雲のような何かでかすんでよく見えない。
塔の中が異世界のように作られているがゆえのありえない規模の仕掛けだ。
「うう……! これはちょっと、ありえない作りじゃないか……!?」
まさかここまで何もできないとは思わなかった。
銃ビーストセージは"ストレージ"の中にしまっている。
あっても何か出来るとは思わないが。
普通スキル妨害というのはこんなに器用なことはできない。
私自身そういうのに耐性とか反転とかあるし。
拘束もそうだ。
行動力自体使えなくするというのはいうなれば心臓を止めているようなものだ。
心臓を止めながら生かしてとらえるとかもはやちゃんと息の根を止めるほうがずっと楽。
まるで私をピンポイントでずっと調整して知り尽くしたかのような罠。
「なぜこんな……!」
「知りたいかね?」
「誰!?」
声が唐突に聞こえた。
そちら見ると下からなにかの影が迫ってきた。
人形……いや違う。
たしかに人形のようだがその女性らしい姿は見たことがないし……
何より漂わせている神力が只者じゃない。
5大竜が見せた時の力に近かった。
「大神クラス……しかも、5大竜レベルの!? こんな神がいたなんて……」
「昔はよくいたさ」
私の前にまで浮いてきたその姿。
限りなくニンゲンに近い姿という違和感。
しかしその美しさや造りが良すぎて逆に作り物めいていることがよくわかった。
その目はカメラアイのようにキュルキュルと機敏に瞳孔が蠢く。
「機械の神……? いや、でも……」
「ほう、わかるか、終末の獣」
「ッ!?」
今の言葉っ!
「まさか本当に機械方面の!? それに、終末の獣って!」
その言葉聞き覚えがある。
どこだったか……そう悪夢でだ!
「そうだ、お前を待っていた、終末の獣……お前のお陰で、この世界は有るべき姿に戻せる」