百八十一A生目 転移
人形たちはこわれたとはいえ生命とは違い耐久力がゼロになろうと死ぬわけじゃない。
意識データが保存されている部位さえ無事なら復活可能だ。
だからかそのままだと"ストレージ"の制限に何か引っかかったのだけれど……
少しゴーレムたちの信号を偽装してモノとして放り込んだ。
時間の進みが極端に遅い空間に入れておいたから大丈夫だろう。
再生されてしまうととても厄介なのでこれで相手の手口をひとつ大きく封じられた。
いや本当に今回はやばかった。
「まったく、この程度で疲労困憊とは情けないな。この先が思いやられるぞ」
「わぁ、血、血ぃ出てる」
「ほら、止血するから横になってね。ニンゲンなんだから今回かなり無茶したでしょ、もうみんなボロボロだよねえー」
「む……」
クライブの頭から血がギャグみたいに吹き出ていた。
ホルヴィロスが止血作業をしている。
普段は私が魔法で治して回っているからなんとも不思議な気分だ。
「ココで彼らが食い止められなかったのは、かなり痛手だろうね」
「うん、本当は情報を聞き出せたら良かったんだけれど……」
「さすがにしかたないよ、あの数相手に手抜きは、死に繋がっちゃう」
グレンくんの言う通りではあるが情報が手に入らなかったのは本当に痛い。
次がおそらくラストの場所。
油断もスキもできない。
相手のデータを調べられないとナニがしたくてこんなことしているのかも不明だ。
明らかに私達のような相手に来いと誘っているようなものだし。
こんなデカいお迎えまでして何がしたいのか。
まああるあるとしてはこの塔で殺したいということ。
なんらかで効率的ならば世界を襲う際の邪魔は少ない方がいい。
ここに閉じさせて殺してしまえば有利ではある。
ただなあ……何かひっかかるというか。
言語化できないもやもやがある。
休憩がてらみんなにたずねてみるもののしっくりとした返答はなかった。
「うーん……」
「ほらローズ、身体は治したから、もうわからないことは仕方ないんじゃない? 直接調べるしか無いよ」
私達は水分だけしっかり取りつつホルヴィロスからの検査を受ける。
ただ私が勝手に引っかかり続けているだけだ。
理由もわからないざわめきで対処方法も思い浮かばない。
ただの思い過ごしならいいんだけれど。
警戒しつづけるのはしておこう。
避けられることならば避けたほうがいい。
「そろそろ行くぞ。ここで派手に暴れたことは伝わっているだろう。犯人を逃がす道理はない」
「そうだね……行こう」
私達は治療を終え増血処置を受けて回復した。
流した血を元の量に戻すのが実は1番治療で大変だったりする。
それをホルヴィロスはなんの設備もないここでやりきるのがプロだ。
私達は展開されたワープ装置を起動させる。
次は100階まで跳ぶ。
「解析したけれど、間違いなく100階が終わり。そこが本丸だよ。転移した形跡の回数がやたら多い」
「そんなことまで調べられるんだ……?」
グレンくんにドン引かれた。
解せぬ。
でもアクセス履歴に関してはかなり簡単に見られるのでこれに関しては覚えればなんとかなる。
「まあ、警戒しつつあとは制圧して、やらかそうとしたこと全部砕いて終わりかな?」
「言葉にすると簡単そうだけれど、相手が下手な魔王戦のときより強いんだけどね……」
「そうなのか?」
「ほら、魔王とは勇者と相性がいいから、勇者がいれば割りとみんな守られたんだ」
「そうなのか」
クライブはさすがに別大陸の勇者のことはあまりしらないらしい。
翠の大地は元々閉じた環境だから余計にそうなるだろう。
グレンくんの姿見も出回っているものより今は幼い。
加齢はともかく幼いならまずわからないはずだ。
グレンくんも自分が勇者と名乗り出る気はなさそうだし。
「どちらにせよ、俺たちは進むしかあるまい。ここで引く手はない」
「だよねぇ……よし、行こうか」
「あ、もう行くんですか? 準備します!」
「補助は切らさないから落ち着いてね」
一番警戒すべきはこのさきだ。
身構え待っていた私達を輝きが多い転移させていく。
だからこそ。
足元の何かが見えていなかった。
転移が終わりひと息つ……
「えっ!? みんな!?」
いない!?
いや違う私だけ別の場所に!?
まさか割り込み処理を喰らったのかなぜ気づかないまさか同じ階層だからバレなかったかどうして私だけ……
頭を回そうとしてそれどころじゃないのに気づく。
はぐれさせられた。
周囲はまるで普通の部屋だ。
戦うにはあまりに狭い。
すぐに移動した方がいい。
誰かがいないか、ら……?
「う、浮いてる!」
まずい! 明らかによくない!
念話も切れているッ!