百七十九A生目 五五
ホルヴィロスの極細の繊維。
それはホルヴィロスに直接繋がっている。
飛び上がった際に関節へ引っ掛けていた。
今までの戦闘情報は全て目で追えていた。
だからこその……油断。
派手に毒をぶちまけて毒針を飛ばしツルを伸ばして。
最初から膠着などしていなかった。
それに人形が気づいたのは今前進が指先ひとつ動かなくなり宙吊りになってからだった。
「マ……! 狙ッテ……!」
「やれればラッキー、くらいには思っていたけれど、まあ当たるのなら当てるよね」
もはやスピーカー器官にすら異常が起こっていた。
濁った音声が響くたびより中枢に届いているのが人形にもわかるだろう。
ホルヴィロスは繊維を引くと地面を引きずるように人形を目の前まで連れてくる。
「キミひとりにかまけている場合でもなさそうなんだ。私の仕事はね、患者が増える前に怪我の元を断つことなんだよ」
「………!」
ホルヴィロスは遠くから来た淡い光に自身の光を織り交ぜつつ。
毒のエネルギーを濃縮して光を圧縮していく。
最高の一滴が今度こそ患部に届けと。
「"神魔行進"!!」
私から発されたのは神の輝き。
神力を開放しそして今みんなに一時的に神力を扱えるように付与した。
コレ自体は大した技じゃない。
ただ一時的に越殻者として振る舞えるようになるだけだ。
ホルヴィロスにも届いちゃったけどまあ良いか。
ただし違いはある。
今までも押し切られなかった戦場において全員が効果付与されたことによる変動。
それがちょっとした変化になるはずもない。
最初に壁に誰かが叩きつけられる激しい衝撃音が。
爆発したかのような衝撃が。
目の前を吹き飛んでいく人形の姿。
どこからか壊れたスピーカーから鳴り響く騒音が。
戦場を支配した。
「ナッ……ナニガ……!?」
「残存戦力、5体マデ減少!?」
「今のうちに全滅させる!」
「マズイ、下ガルゾ!」
私が追加で攻めようとイバラを伸ばし剣ゼロエネミーで追撃。
イバラをあまんじて受けられつつもダッシュで逃げていく。
追いかけなきゃ!
これは私のというよりもイバラを振るう前提の動き問題だけれど走りながらだと攻撃のバリエーションが落ちやすい。
一撃は大きいけれど肉体でバランスよく振って踏み込むという技術が必要なイバラはダッシュ時にそこまで深い行動に繋げられない。
だからこういう時は魔法に限る!
相手が踏み抜くであろう地面に設置しておいて……今!
土魔法"Eスピア"!
単純な威力と取り扱いやすさならこいつが1番。
「「ウワッ!?」」
足場を取られしっかり突かれた人形たちは吹き飛ばされながらも必死に体勢をととのえる。
次々発動させる魔法罠たちに体を削りながらも背中からブーストを焚いて緊急離脱していった。
私達5人。
全員が世界に影響を及ぼすようなオーラを漂わせている。
"神魔行進"の力だ。
「今まで見えていなかったオーラが見えるな。この俺達に纏ったオーラの力か」
そして対峙する人形たちも目をこらせば神力が内側に込められている。
人形たちもこちらとは違うけれど同一の神力。
同じ相手からもらった力だ。
「戦術がココマデ破綻スルトハ……」
「事前の戦力評価と違ウ! コチラは傷を負ッタ5体シカ残ッテイナイゾ!?」
「観念しろ、お前たちの情報を俺たちは超えていく!」
「ナゼイレギュラーは発生スルンダ……!?」
「物事をテンプレーションで測りすぎです! あらゆる物事、特に生き物は常にゆらぎ、結束して大きく変わる、VUCAを考えないからイレギュラーが起きるんです!」
たぬ吉たちが人形に向かって足を踏み込んでいく。
人形たちは最初の勢いをなくし有効な手が見つからず一箇所に縮こまるように集まっていた。
相手に攻めさせるしかこの難局を乗り切る手がないからだ。
「クッ!」
人形たちは各々道具らしきものを投げる。
すると一瞬で厚い岩の壁やトゲが形成された。
「魔法を封じていた石か!」
「逃がすかっ」
私の分析にクライブは一気に踏み込む。
振りかぶろう……としてすぐ剣を盾に後ろへ跳ぶ。
同時に槍のように鋭い1撃が飛んできていた。
うがつように貫きそうになった槍だがギリギリ弾いた。
そのままみんなの位置まで下がる。
岩の隙間から槍の金属がきらりと光った。
「チッ……どこからカウンターを仕掛けてくるかが分かりづらいな」
「わかった、私が分析したのを念話で共有する――」
「――一斉斉射開始」
「ッ伏せて!」
最後の抵抗だ。
むこうも必死なのだろう。
彼らは倒しても光となって消えることのない……塔が生み出した存在ではないから。