二百二十一生目 出発
「じゃあ調整するね!」
靴職人と服職人が服を着込んだ状態の私をあちこち見たり触ったり測ったりと動きまわる。
ふたりが体中触りまくるもんだから笑いをこらえるのに必死だった。
そんなこんなしているうちに。
「おまたせしました」
「おお! 来たね! 着たね! 似合ってるね!!」
「うん、我ながら良い仕事した」
カムラさんが九尾家で着替えてからやってきたようだ。
前は燕尾服を着込みまさに執事だった。
それが今や異国情緒あふれる民族衣装に!
いわゆるクルターパジャマと言われる服をメインに改造されたものだろう。
本来は立ち襟のあるゆったりとした服だがところどころ引き締まるような色合い。
さらに動きやすさを重視かつこちらもベルトに斧鞘を引っさげている。
カムラさんのターバンは長めで頭を覆いさらには両目も覆っている。
これで文字通り死んでいる目を隠してアンデッドだと思わせないわけだ。
ちなみにアンデッドは物理的な目に頼らずにちゃんと見えているらしくて問題はない。
「似合ってますよー!」
「そちらもとてもお似合いで。ぜひユウレン様に見せたいところです」
「きっと気に入ってもらえますよ」
カムラさんとそう言葉を交わす。
そして今度はカムラさんの番ということで色々とはかり直しされていた。
その後は一旦服を脱いで最終調整をおまかせする。
数時間かかるということだったので一旦群れへ戻り各々の作業を進める。
そして……
「ヨホホーイヨホホーイ! こいつで完璧だ!!」
「アフターサービスつきだ。壊れるなり、経年劣化なり、取れない汚れなり、なんでもいいからたまには見せに来てくれ」
「わかりました! ありがとうございました」
「大切に着させてもらいます」
丁寧に包まれた服一式を受け取る。
彼らの魂がこもった1作だ。
大切にしよう。
「じゃあ、私は、ね、う」
「わあ!?」
「あー……寝ちゃった」
まるでエネルギー切れかのように服職人のカワウソは倒れ込んでしまった。
よく聞くと寝息が聞こえてくる。
「こいつ今回の服は大掛かりだからって気合入れていたからなあ! まあ服の事以外、睡眠すら雑なのがコイツの欠点なんだよ! ほら、こんなところで寝てたら風邪引くぞ!! 全く何徹したんだか!」
凛として静かな人だったがどうやら服への情熱が異常なほど燃え上がっていたようだ。
己自身すら焼き尽くすほどに。
靴屋にペチペチ体当たりされている寝顔にそっと聖魔法"ビアースタミナ"光魔法"ヒーリング"をかける。
多少は改善されたらしく寝ぼけながらも起きて自身の工房へ入っていった。
「よーしよーし、じゃあな!」
「またお願いします」
靴屋もそれを満足そうに見届けて中に戻っていった。
あのふたり案外仲がよさそうだった。
モノづくりに対する根の部分が同じで通じ合う関係なのかな。
日付を改めて。
カムラさんの服はユウレンにも好評で『着慣らしておくために』と称して買った服を着ていた。
そして私の方にも進展。
魔力が地光土火で鎧のグラハリー。
聖光土火で魔女ホリハリーになることは判明していた。
他のは何だろうと様々な組み合わせを検証した結果だ。
組み合わせはいくつも可能だがその中身は4種類。
他は"進化"先がかぶっていた。
まだ真の力を引き出せていないから扱いきれなかったが……
だけれどもどれも強力な"進化"だ。
今後も頼る時が来るだろう。
とりあえず今は真の力を引き出しているホリハリーが便利だろう。
さて今は日暮れ。
そろそろ旅立ちの時だ。
地図も持っているし方角もばっちりだ。
「ではお気をつけていってらっしゃいませ」
「お土産買ってきてね」
「いってらっしゃ〜い!」
私とカムラさんそれにドラーグを見送りに多くの魔物たちがやってきた。
アヅキとユウレンが前に出て代表で話してくれた。
「いってきまーす!」
「それでは、ユウレン様もお気をつけて」
「はりきってくるよ!」
空魔法"ファストラベル"で外界までワープした。
外界の山の下までついてずっと続く陸地の向こう側を見据える。
速く走り込んで数日はかかると思われる遥か遠い向こう側。
もちろん対策はある。
カムラさんは事前にユウレンに作ってもらった走る鳥型骸骨に乗る。
そしてドラーグはその影に潜り込むことで走る必要を無くす。
私は自身に"ビアースタミナ"と火魔法"クールダウン"をかけつつ自力ダッシュだ。
しばらくは移動に専念してちゃちゃちゃっと走り込んで行く。
文字通りの山あり谷ありの地形だ。
わざとニンゲンが通らない場所を通っているせいでもある。
そしてニンゲンが通らないということは……
「出た!」
「そろそろだと思っていました」
複数の魔物たちと遭遇した。
3匹の蛾……とは言ってもサイズが尋常じゃない。
本体だけでニンゲンの丈ほどあってきらめく鱗粉を落としながら飛ぶ翅は当然人を包み込むほど大きい。
唯一蛾らしくはない鋭くギザギザな口元を開閉しつつこちらへと襲ってきた。