百七十七A生目 反撃
クライブは斬撃の手応えに覚えがあった。
相手が神秘に包まれている時のもの。
神の力による隔絶。
クライブの力で道具を使えば神の力を得て越殻者になれる。
そう使えれば。
スキなく攻めたてるというある種当然の対策はクライブのようなタイプにこそ悪く刺さっていた。
クライブが指輪やら何やら使うスキがない。
大ぶりの剣であると共にとにかく弱みがあった。
「コイツはデータにアッタ……強力ダゾ」
「……俺を知っているのか」
「個体クライブ、翠の大陸デノ有名冒険者!」
そしてクライブは間違いなく有名人だ。
英雄と言える方向ではないかもしれない。
けれど冒険者としては地元国家で頭ひとつ飛び抜けている。
王族と政府どちらにも繋がりがある。
そんな有名人に関するデータはあちこちにあるわけで。
クライブも当然対策されていた。
奥の手をぜんぶ把握しているというこたはないだろう。
ただどううごけば強いかはわからないはずだ。
「コイツは単独デモ強イ! スキを与エテ他の救助に向カワセテハイケナイ!」
「カナリ打チ込ンデイルガ、貫ケナイカ」
「はあぁ……面倒な相手だな。聞いていただけある。どう抜けるか……」
クライブが周囲を気にしつつ戦っていたのは間違いない。
そのために立ち回りで跳び回っている。
だけれどもぴったりはりつかれ成果は芳しくない。
当然ダメージもある。
ずっと打ち込まれているのだ。
腕に響くし避けきれない分は血が散る。
とはいえグレンくんよりは余裕がありそうだ。
武装が全体的に重量級なのもある。
それに彼の剣の型は対人も想定している。
かなりの攻めにも関わらずしっかり対応できているのはそういうことだ。
「ハァッ!」
ガチンと剣が噛み合い音が鳴り響く。
弾いた動きは相手に特定のスキを作らせる。
その合間にもう片方が入ってくるので一瞬蹴るかためた火の魔法を放つかくらいしかできないが。
1回の攻めに10回攻められる。
レートがあっていない。
ジリ貧という言葉がとてもぴったりだった。
あちこちで戦闘の音が鳴り響く。
人形側は神の力ゴリ押しなだけでクライブの技術に食いつくのに必死だ。
拮抗していれば勝てるというのは逆に言えば余計な動きはできないということ。
燃やされようと蹴り飛ばされようと耐久力の残りでゴリ押しした。
クライブはひいて打ち合うがなかなかソレ以上うまく下がれない。
「待テ、逃ゲルナ!」
ゴリゴリと削るような乱撃。
そのままではどうしようも……とした時に。
ふとクライブがステップを刻んで下がった。
「サセルカ!」
「待テ! ン? アッ」
その瞬間だった。
角を曲がってきたゴロゴロという音。
激しい回転をした草の巨大転がり球。
たぬ吉のものだった。
「待テーッ!
「ア、アブナカッタ……ン?」
その時1体の人形が間に合わず吹き飛ばされたなど思いもしなかっただろう。
そんな判断をくだせるまでのほんの僅かな瞬間。
クライブが……フリーになっていた。
「随分悠長だな」
クライブはたぬ吉が逃げてくるルートを把握していた。
そして下がって当たらないように避けたあと……
すぐに大きすぎる指輪を空間拡張した袋から取り出していた。
祈るように使ったそれはクライブから力を引き出す。
越殻者としての力を。
負荷がかかるため普段はあまり使わないらしいが……相手が相手だ。
クライブは力を纏ってから剣を振るった。
それは先程の物とは違う怪力の1撃。
神の力を纏った猛攻。
「何!? ガッ!」
それは相手の神秘を喰らい尽くす切り裂き。
先程までと同じような剣撃。
それでも中身はまるで違う。
人形のからだが軽く浮かびそのまま吹き飛んだ!
先程までとは違う人形の腕剣ごときでは受けられない重さ。
神の力が拮抗し貫かれた衝撃。
「悪いが、俺が助けて回れば良いだなんてほど、ヌルい覚悟で来てないんでな。俺達全員でお前たちを討つ。覚悟しろ」
クライブの動きはけして早くはない。
ゆらりと構えた動きと巨大な剣は人形たちを喰らうのに十分だ。
人形はその存在しない脳が恐怖を抽出したかのように思わず足が下がってしまう。
「ナ……!? 何故今下ガッタ……!? 恐レテイル!?」
たぬ吉に吹き飛ばされたのと先程剣で吹き飛んだもの。
どちらも帰ってきて戦況は戻せたはずなのに。
人形たちは先程の勢いを維持することがまったくできなくっていた。
ただ息を整えるための会話。
それがわかってしまったから。
今までそれをなしでしのいでいた相手が振るう刃が……
「この剣、受けてみろ」
淡い輝きが遠くから飛んできたその身が。
もはや押し切れる相手ではないのが明らかだったから。
刃は鋭く振られた。