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百七十四A生目 勇者

 人形たちはあと7体。

 大量の破砕音に射撃音が響く。

 私が戦っている横目でグレンくんも戦っているのが見えた。


「コイツが勇者ダ! 余計な事をサセルナ!」


「勇者……魔王を討チ滅ボシ者……他と協力サセナイ」


「ああもう、他のみんなと合流できない! なんなんだコイツラ!?」


 グレンくんのまわりにいるそれはまるでまとわりつく蝿。

 ニンゲンサイズだしニンゲン型だけれども動きが完全にそんなふうだ。

 薙いだ刀をなぞるように避けたり。


 迫れば下がるのに距離を取ろうとしたら接近してくる。

 目の前の相手をしていれば背後から斬撃が迫る。

 ギリギリで気づいて髪の毛が散った。


「ッベェ!?」


 そして返す刀を振るってもまたゆるりと避けられてしまう。

 とにかく徹底的に打ち合わせてくれない。

 もちろんグレンくんは戦いの素人じゃない。


 巧妙に混ぜた技術と飛ぶ斬撃。

 刀に見せかけて腕や足を使ったりグレンくん以外では見たことのない輝きを放ったり。

 周囲一帯を無尽蔵に破壊するオーラ放出なんかもした。


 しかし捕まらない。

 グレンくんのデータは……ある意味で有名すぎる。

 その中身は既に勇者ではないとはいえベースの動きは勇者なのだ。


 たくさんデータはあっただろう。

 どこからでも学習できたはずだ。

 大量の取材と証言それに映像。


 あらゆる形でグレンくんの活躍は残っている。

 逆に言えばあらゆる形でグレンくんの型を学べてしまっていた。

 成長分の幅はあるとはいえ学んでハメる無機物構造の彼らにとってはカモである。


「あああっ、イライラする!」


「タッタ一人の勇者ナド、恐レル事ナド何モナイ!」


「コノママ活動を停止シロ!!」


 人形たちの連撃が止まらない。

 蝿のように動くものの攻める時はカマキリのようだ。

 刀では守りきれず全身を少しずつ人形たちの拳や剣撃を喰らう。


「ッ!」


 いなし避けるとしても無傷ではない。

 鎧の上から受けたとして確実に中に響く。

 生命力が目に見えて削り取られていた。


 何より継続戦闘能力が奪われるということが致命的だ。

 血が奪われれば疲れ重くなり集中力は途切れる。

 それは生命に定められたリソース。


 致命傷を受けていないのは人形たちの戦いがそういった削る戦いだからだ。

 勇者相手に心を削るような戦いは無謀だ。

 ただそれほどまでに警戒しているとも言える。


「絶対に打チ合ウナ! 打チ合ウ程二強クナル力が有ル!」


「クソっ……!」


 グレンくんのスキル構成もバレている。

 いろいろと共に戦ってわかっていとたのはグレンくんのスキルビルドはまさしく『勇ましき者』だ。

 前へ相手へと果敢に攻め自分含めたあらゆるものを守る。


 そのための力だ。

 逆に言えばそれをさせられないあの動きは勇者殺しともいえる。

 グレンくんも絡め手はあるものの圧倒的に超戦力による圧倒のほうが得意。


 人形たちはそれをわかっていて避けるか避けきれずとも防いでいる。

 剣撃を弾いたり前へ進ませたり。

 縦横無尽に動かしたりを徹底的に防いでいる。


 それだけでグレンくんは大きく困窮する。

 味方がいないのもそうだ。

 勇者とはその横に背におおくの仲間を引き連れてこそ力を発揮する。


 今勇者ではなくともグレンくんがやるのは同じことだ。

 それに搦手のほうもそうなる。

 勇者は誰も立たぬ荒野を斬り裂き道を作るもの。


 できないというより向いていない。

 そして……最大の弱体化は。


「勇者の剣無キ勇者は、コノ程度カ!」


「弱ッテイルトイウデータは、間違イデハ無サソウダ」


「好き勝手言いやがって……! まともに戦えっての! こっちに来い!」


 最大の弱体化……それは勇者の剣が握れなくなったということ。

 勇者が勇者の剣を持てば鬼に金棒という具合だ。

 たしかに鬼は素手でも強いが……金棒の有無は大きな戦力差になる。


 勇者でもなくなり勇者の剣の真価を発揮することができなくなったグレンくん。

 勇者の能力であるあらゆる武器の真価を異様なまでに引き出す力。

 あまりに強すぎて一般的な武器では振るうたびに破損していたソレが……今はない。


 勇者の剣はその力を引き出す前提だ。


「っく!」


 人形独特の感覚。

 体の装甲が分厚い部分の木質で受けて刀を食い込ませ止めた。

 痛みの神経が通っているのならあれだけで気が遠くなるような荒業。


 しかし人形にとってはなんてことのない技。

 返すように拳を固める。


「ソロソロ止マレ!」


「ゴフッ!」


 刀ごとボディーブローで吹き飛ばされるグレンくん。

 今のは入った。

 口から液体を溢れさせつつもその目だけは生きたままで。




 人形たちの背後にイバラが伸びていた。


「ローズ!? 4体に囲まれていたんじゃあ……」


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