二百二十生目 変装
「よし。ではさっそくじゃがまずはこれじゃ」
数日がたち改めてカムラさんとドラーグと共に九尾家に来た。
中にいれてもらって見せて貰ったのは拳より少し小さい程度の石。
……ただ感じる気配が石ころではない。
「そいつは自らの種族だけなら偽れる石じゃ。基本的には能力では見破れないはずじゃぞ。ただしそれ以外は偽れないし、それぞれの石はそれぞれにしか対応しておらんからな。ちなみに石っぽいが精密な魔法加工がしてあるから強い衝撃はご法度じゃぞ」
「わかりました、ちゃんとホンニンが持っている必要があるんですね」
「そうじゃな」
カムラさんと私がそれぞれ受け取る。
ドラーグは影に隠れるから大丈夫。
九尾はさらに次の発明を並べていく。
ええと、この丸薬っぽいのは何だろう?
「これはなんです?」
「飲めば結界を中和して無反応にしてくれる魔薬のスグレモノじゃ。ただし次にトイレする時までじゃな」
「ちなみに効果の実験は……?」
「お前さんたちなら多少何かあっても大丈夫じゃろう?」
ドラーグの問いに九尾が悪い笑みで答える。
ヒエッ、と小さくこぼしたドラーグの声が聞こえた。
気持ちは分かる。
今度出てきたのは……
厚いガラスレンズが2つあってそこからつるが伸びて高い部分にひっかけられるようになっている。
あっこれってもしかして。
「おや、眼鏡……ですか?」
「そうじゃ。ただし獣用じゃな。ある程度は調整が利くがの。これは『おみとおしくん』じゃ。"影の衣"のように隠蔽してしまう上位能力までなら貫通する力があるの。ただしつけてなければ効果はない」
「"無敵"みたいな他の能力も通るんですか?」
「理論上は、そうじゃ」
カムラさんの問いに九尾が答え私の問いにも答えてくれた。
おお、これはかなり嬉しい。
さっそくかけてみたらガラスそのものに度は入ってなかった。
まあ度入りだったらとても目をあけられないだろうが。
[クビクシンLv.16]
[クビクシン 個体名:アインキャクラ・ラン
半妖や仙人それに神の遣いなどみるものによって様々な捉え方をされる人間のトランス先のひとつ。原因はそこにたどり着く方法があまりにも特殊で凡人では決してたどり着けないとされる。この世にまだ存在しないものを生み出すのが得意なため化かしとも言われる]
ぶっ!?
飲んでたお茶ふくかと思った。
周りがなんだなんだと不審がるがなんとかやりすごす。
確かに『おみとおしくん』は機能した。
スキルで阻まれていた九尾のことが見れたよ。
ただ、その、なんなんだこの説明文!
ユウレンも知ってる超有名人なこと、なおかつ只者ではないことはなんとなくわかっていたが……
ここまでデタラメに強そうな説明文もめったに見ないぞ。
「まあともかく、今のを持ってなおかつ変装と演技をきちんとすれば平気なはずじゃ」
「わかりました、ありがとうございます!」
「ああそうそう、ちゃんと機能したかどうかの報告も忘れないようにな」
悪い笑顔を浮かべる九尾。
ちゃんと機能しなかった場合、生きて帰れるかが不安なのですが……
そう言いたかったが、とどまった。
「はい、1回着てみて。調整するから」
「そうそう、最後の調整はやっぱり見てやらないとな! 壊さない程度にジャンジャン履いちゃって!」
移動して職人街にやってきた私たちは早速最後の調整のために服と靴を着ることとなった。
ちなみにカムラさんは「いくらなんでも街中で服を脱ぐのは」ということで九尾家で着替えている。
私は"進化"してホリハリーになり服を着込んだ。
服屋に指示を受けながら丁寧に着込む。
うーん前世ぶりの服だ。
布の感触が慣れなくて毛皮を通してチクチクしてくるような気がする。
「ど、どうですかね?」
「うん、ちゃんと着れている」
「おほー! 良いね良いね! じゃあここから完璧にしちゃおうね!!」
全身を覆うように纏う民族衣装はどことなく短いターバンとサリーに似ている。
確か前世で南アジアあたりの服だよね。
要望どおりあまりこの地域ではみないものだ。
もちろん委託が入っているし私の要望も込められていて詳細はかなり違う。
動きやすい服装にサリー独特の大きな布を巻きつけようなもの。
それなのにベルトもしているし鞘も提げられるようになっている。
尾もちゃんと通し穴から外へ出ている。
首飾りでもともと私から生えている胸飾りが違和感ないようにして1番の隠蔽は額のターバン部分。
巻きつけただけに見えるのは見た目だけで服技術と魔法技術を駆使してかなりしっかりとくっつき離れなくなっている。
そのうえ偽物の髪……つまりウィッグがある。
私の針のような髪に質と色を合わせて前髪として額の目を隠す。
人間たちに怪しまれにくくするために全身の模様や額の目を隠しているのだ。
だから長い手袋もしている。
活発的でなおかつ民族衣装のような格好にたす靴はかなり頑強で金属のようなレッグアーマー。
かかとまで裏があり表側はひざまでしっかり覆っていた。
冒険者のような活発かつ好戦的な格好だ。