百六十三A生目 鰈舞
魚群たちはなんとか片付けた。
数はたくさんいたしタフだし威力は高いけれどやっぱり最初の対応がよかった。
弱っている間に全員でボコボコにするだけだし。
「とにかくフィールドとホルヴィロスの相性がいいね」
「え!? 惚れた!? 私に惚れたローズ!?」
「え、いや……?」
「惚れたよね! 惚れるよね! 私働いたもんね! ローズが傷つかずに済む方法、色々考えてきたからね、どんどん相手をハメ倒していくよー!」
「聞きゃしない」
それにしても順調だった。
水であるという点をのぞけばみんなの活躍で快適なほどに。
あっという間に69階。
「70階への道を見つけた」
「とんでもなく広い塔ですねえ……ぼくたち、かなり強引に素早く突破できていますけれど」
「下手したら一般的にはここで数年は籠もれるんじゃないか?」
「ああ、普通に稼ぎにきたり、依頼をこなすならば常にここに居座る冒険者がいてもおかしくないな。幸い地図を完成させられるほどに狭い世界でもない。だが……ここの塔は、そういったものではないのだろう?」
クライブはやはり察していた。
何もこちらに問わなかったが……
どう考えても異常な塔に異常な私。
そして私が仲間をみんな呼び寄せて戦いに赴いている。
まあ普通じゃないよね。
「うん。どこから話せばいいかな……そう、まずは人形騒ぎからかな。あの人形騒ぎは、世界を襲っていた。冒険者協会や国家間がなんとか通信をとりあって、なんとか把握できたことだけどね」
「ああ、あの人形騒ぎか。聞いたことは有る。都市が襲われて大変だったそうだな」
「それで私達は、調査に乗り出したんだ。途中まではなかなか逃げられていたけれど、今やっと尻尾を捕まえたところ」
「それがこの塔か」
「そう。ここに親玉がいる。犯人は神だ。同じく神の力を持たなければ対抗しえない」
「神の力、か。あのたまに出くわす特殊な力の相手か。そして俺も持っているものだな」
「そう」
クライブはいくつかの装備から力を引き出すことで神の力に対抗しうる。
私が昔に神の力にあがらえたのは蒼竜の気配のおかげだ。
彼らにとってただの呼吸でもそれは小さな命にとっては加護そのものとなる。
あ、ちなみに私はそんな歴史ある神ではないのでそんな力はありません。
スキルをぶん回さないとね。
「どちらにせよ俺がやることは変わらない。この剣を振るい、敵を打ち倒す。それだけだ」
「うん。悪いけれど、少し付き合ってもらうよ」
「問題ない」
クライブはブレなかった。
きっと前までは関わりを拒否されるまであっただろう。
彼の中で確かな心境の変化が見られた。
「ありがとう」
70階。
到達したここはボスエリアだ。
深い海はあまり視界がきかない。
とにかく暗いからだ。
においは重要な情報なので私達にふれる海流を自動解析かけている。
だからいままで不意打ちはなかった。
しかして何も見えない。
探知に何もひっかからずただただっぴろい砂と暗闇が広がる。
深海の恐怖。それはきっとこの何もない空間のことだ。
「敵がいない……どうなっているんだろう?」
「グレンくん、気をつけながら探って」
「ひゃああ、うすきみ悪いなあ」
「これはどさぐさに紛れてローズに抱きつくチャンスでは……!?」
「ぶっ飛ばすよ」
私達が会話をかわしていても警戒網はまるで緩んでいない。
なのでその僅かな変化にも気づけた。
全員が一斉に同じ方向へ身構える。
念話のスキルで繋がっているゆえの力だ。
「来た!」
砂煙がほんの僅かにあがる。
それだけで私達には十分な変化。
フォーメーションを組み直し砂地から距離を取る。
すると砂地から飛び上がる大きな影。
この冷たい海底に響く轟音。
その正体は……
「みんな離れて!」
「あれは……カレイ!? 美味しそうだな!?」
「ええっ!?」
グレンくんがさばこうと目を輝かせている相手。
それは砂に潜っていた全容。
カレイと呼ばれるような魚だった。
ただし大きさは化け物クラス。
私たちを丸呑みしてもたらなさそうな巨大魚。
カレイは私達を見ながら素早く泳いでいる。
何も寄せ付けないほどの存在感。
薄い身体がデメリットになっていない。
「どう攻めるべきか……」
「外皮は硬いというより、ぬるぬるしていそう」
「不用意に近づいたら飲まれちゃいますよ!」
「だが攻めないわけにはいかない。いくぞ!」
クライブが距離をとりつつも大きな指輪を取り出す。
あれからクライブは力を引き出して全身にオーラを纏うのだ。
さっそくクライブが前にとんでいく。
もちろん私達も後へ続く。
巨大カレイからは反撃として多数の水球が飛んでくる。
海の中を水球が飛んでくるのはなんとも不思議だが弾丸のようだ!