百六十A生目 圧巻
食べられもしないウサギを倒しつつ。
経験しかたまらないのはなんともむなしいものだ。
たまに切り離された欠片がキラキラとした石に変わるけれど。
これはこれで力がこもった宝石になる。
普通の冒険者が利用するときまでここがあれば良い稼ぎになるんじゃないかな。
まあ私達は数が揃ったので特に苦戦せず進んでいく。
行軍速度はやや落ちるがそれでも早い。
たぬ吉の足もゴーレムに乗って転がり後ろを走る。
移動はそんな感じで済んでいる。
60階。
ここはまたボスのいるところだろう。
敵はこの雪の中すでに身構えていた。
「なんだろう。ボスなんだろうけれど……すごく静かだ」
「グレンくん、彼は殺意だけは研ぎ澄ましている。気をつけて」
それは腰に剣を携えた大柄のトカゲ。
2足だが完全に魔物のソレだ。
剣もよく見ると鱗と牙で構成されている。
なるほどそっちがボスになったかあ。
3メートルほどあるためサイズ感的には圧巻だ。
その強さの雰囲気と違い何も動きがない。
逆にピタッと止めてあるというのは姿勢が自力で制御できるからだ。
込められた力は相当なものに違いない。
「ふむ……あれは近づくのは危険だな」
「うん。俺と同じように、抜いた瞬間の攻撃が苛烈だと思う」
「ならば安全なところから空振らせるのか先か」
「じゃあぼくが仕掛けます! みなさんは、その後に続いてください」
「わかった!」
たぬ吉が早速後方で花を植えて……
そのまま大きな植物エネルギーの球が放たれる!
3つの球が巨体に迫る直前に。
その牙の刃が振り抜かれる。
球が3つともキレイに割れて弾き飛んだ!
そうして正面に剣を構えて……
「ハァッ!」
「いくぞ!」
怯むことなくクライブとグレンくんは踏み込んで剣をあわせる。
ふたりとも技量は素晴らしく高いはずだ。
なので前は彼らに任せて……
私はホルヴィロスの隣に並び立つ。
「このリアルタイムの念話、やっぱり凄いね! 作戦と思考飛んできてが普通の時間感覚よりずっと濃厚に来るよ! さすがローズ!」
「それ口で言う間に準備は?」
「もちろん!」
尻尾をぶんぶんさせながら私の方に話しかけてきたけれど準備派やっといたらしい。
既に前線では互いの肉を斬り裂く斬撃の嵐が吹き乱れている。
私とホルヴィロスは同時にイバラとツルを放つ。
当然向こうは前衛ふたりに押されていても機敏に反応してくる。
イバラごとふたりの剣を切り払い……
「よし!」
切り払ったツルとイバラの断面から2つの猛毒が放たれる!
ちゃんと見ず横着したゆえだ。
太らせたツルたちの異常さに気付けなかった。
私に至っては尾をイバラにして花を先端につけていた。
あの花形赤いトゲがなきゃ毒を生み出せないのだ。
イバラを解除すれば無事な尾が戻る。
毒液をとっさに身を翻したらしく距離をとれている。
ただし回避しきれたかは別だ。
いくらかはあたり鱗を無慈悲に焼く。
そしてなによりもだ。
「……」
手に持った刀が猛毒で焼けた。
素早く全身から気迫を飛ばし毒を弾いたけれど……
既に蝕まれた分はかわらない。
歯は虫食いのようになり鱗は所々とけかけている。
見るも無惨な姿だ。
「今度こそ!」
たぬ吉の飛ばすエネルギー弾3つがさらに飛んでいく。
剣を振られ……押し切られた!
爆発し煙を上げていく。
そこに油断なく前衛ふたり。
私は魔法を練り上げつつ接近した。
ケガをして出てきたあと前衛ふたりとの斬りあいはうまくいっていなかった。
それもそうだ。
予想外の猛毒でやられたんだろうし。
私もここまでホルヴィロスと毒の威力を稼げるとは思っていなかった。
やはりまだまだレベル差というものがあるのだろうか。
ああいう技量で押すタイプは特に力量で押されたときに流しきれなかったりする。
しかも単体じゃなく何重にも攻撃を重ねた搦手。
もう向こうからしたら厄介だろうね!
3メートルもの巨体で喰らいながらも返しているが剣がうまく振れていない。
彼にとって重要な剣の剣さばきを大幅に変えなくてならなくなったのだ。
2つの斬撃はそこを容赦なく詰める。
1撃ごとに相手の勢力を削り。
次の1撃で鱗の弱った部分を削る。
そうして深いところで武技を放ち……
クライブの一瞬での3連撃とグレンくんの刀が一瞬で乱れ切る技。
どちらの武技も相手に花開いた。
そうして。
「剣が!」
「折れましたね!」
私は一気に詰める。
相手は剣が半ばから折れても気にしない。
いや気にしてはいるか。ものすごいふりにくそうだもの。
そうして私が空から急襲し上空から大質量の魔法で炎を浴びせる頃には……
もはやみんなの大技をそれぞれ食らってしまい光となって消えていくしか道はなかった。