百五十八A生目 勇者
最後のひとりを呼び出す。
ここまでにホルヴィロスとグレンくんという変わったメンツ。
最後もまあ……ふつうではない。
その姿は4足の私と比べても小柄。
しかしてどことなくずんぐりむっくりな印象で……
身体から草木が生えている。
そしてその顔はなんとも幸せそうにしていた。
「ローズさん! おはようございます!」
「こ、こんにちはたぬ吉」
業界挨拶が染み付いているのはたぬ吉だった。
たぬ吉は私との森からの付き合いのひとり。
元々バトルが得意な方ではなく逆に器用万能なのでアノニマルースの裏方としてメチャクチャえらい魔物になっている。
私が関与しなくてもどんどん出世していた。
今は私にももう全容を把握しきれていない。
その分責任も増していて過労気味。
私が渡した手製のミスリルアクセを今も身に着けている。
ずっと着用者を癒す効果があるのだ。
たぬ吉は笑って手を振っていた。
「久々の現場です! ローズさんからの経験分配と裏方で鍛えた分はありますけど、運動は少し不安だったので、昨日は体を鍛えておきました! アノニマルースのジムで!」
「それは心強いね。まあ、無理はしないでね? 今日はいけるところまで行くってことだから」
「はい、もちろん! えーっと、クライブさんでしたね。私は、こういうものです。今後ともよろしくお願いします」
たぬ吉はクライブに向き直り名刺を手渡す。
この冒険者とは全く違う文化を感じるやりとり……
クライブは当然困惑したが受け取った。
「あ、ああ……なんというか、変なやつしかいないな……?」
「私にそれを言われても」
クライブもあまり他人のことを言えないからね。
「やあ。グレンくんは久しぶり、たぬ吉くんは、直接的には初めてだね。ホルヴィロスだよ、よろしく」
「あ、たしか診療所にいた……お久しぶりです。たぬ吉さんは、たまにアノニマルースからの書面で名前を見ます!」
「おふたり共はじめましてー、ぼくはたぬ吉、お二人共、資料上のやり取りではよく……」
「ああー、こちらも、あの医薬品認可を手伝っていただき……」
「その節は俺の立場を守るために色々とお世話になりまして……」
社会人が伝染して3体になってしまった。
社会人って伝染るんだ……
社会人パンデミックはともかくてして。
私たちは5体とも挨拶し交流を終え魔法をかけて進む。
雪は森の中しんしんと降り注ぎ全てを埋めようとしてきていた。
「あー、久々ですね、この感覚」
「だよねぇー!」
「ローズさんとたぬ吉さんの故郷でしたっけ」
「そうだねぇ。敵もそのぐらいが良いんだけれど……」
「カミサマが出てきたら、不味いですよねー!」
「あー、そりゃそうか!」
私達が地元ークを繰り広げている中。
「……それで、片腕で剣をね。フンフン」
「ああ。なぜあんたがそんなことを知りたがるのかは不思議だが……」
「あ、このお方はお医者様なんだよ。しかも凄腕の!」
「一応やらせてもらっているよ」
「へぇ、見かけによらないものだな……」
あっちでは距離の探り合い。
そしてグレンくんは当然のようにあちこちに会話を回している。
すごい器用だなぁ。
グレンくんは試練を終え旅路を紡いだ。
濃厚な経験がこういうところでも生きているのかもしれない。
しかしてそうこうやっている間にもここが危険地だと知らされる。
「きてるね」
「わぁ……来てますね、たくさん」
「敵か」
「迎え撃とう!」
「そうだね。ローズいいとこみせてー!!」
私、たぬ吉、クライブ、グレンくん、それとどこかのオタク。
対する相手は……?
接近する数は結構多い。
「グウッ!」
「ガガッ」「ハッ」
「これは……」
その姿は……ある意味では狼型。
しかしそれよりも私は似た姿を知っている。
7匹も来たそれはこちらの多さゆえにつられたのだろう。
背中に大きな針を持ち柔軟な体で立ち回り取り囲んでくる。
それは私の初期種族……ホエハリによく似ていた。
「でも、私のそれとは違うね!」
まず体の端が白く雪のように変化してなびいている。
雰囲気もあの家族たちのものとは違う。
ここにあるのは魂なき目をしたものたちだけだ。
「よくはわからんが、倒して良いんだろう?」
「もちろん!」
「数が多いから気をつけてね!」
まずはクライブが前に出て1体を斬る。
氷の盾を作り出されて防がれ……
しかして反撃の周囲からの噛みつきを華麗に避ける。
私達も後を続いた。
まずグレンくん。
勇者としての能力を捨てたからか風貌も変わっていた。
1番目立つのはその刀。
前まではコレクションするだけで壊れるということで使っていなかったはずだ。
ということは……
「抜刀……一閃斬り!」