百五十二A生目 記録
私は4足から2足のモードに戻って服をまとう。
ニンゲンたちはたまにある陸地の上でテントをはっていたようだ。
人数は4人。
近づけば鼻をかすめふのは命のにおい。
……血のにおいだ。
テントの中。ふたりが倒れているな……
「どうにか倒してくれるといいが……」
「ここで備蓄を使いすぎたね」
「初見では、あまりに危険だな」
「ただ、このまま行けるかどうか……」
4人があつまり会話している。
よくみずともみんなケガのあとが見られた。
回復役がやられたのか。
私はあえて足音をたてて近づく。
先遣隊の4人はすぐに気づき武器を構えてこちらを見て……
「お……おお?」
「冒険者……だよね」
「命知らずよ向こう見ず、か。今回はたすかったかもしれんが」
「みんな、警戒を解かないで。ワタシが行ってくる」
ひとりの女性が前に出てきた。
美しい三角型の大きな長剣を手にしている。
「こんにちは、お困りですか?」
「……あなたは?」
「私はローズオーラといいます。ええっと……これが冒険証ですね」
私は冒険証を目の前の相手に見せる。
相手は不審げにこちらをみて……
それから驚いたように目を見開いた。
「ら、ランクがV!? 随分な人じゃないですか!?」
「私は言ってしまえば先発隊の第二メンバーです。色々任務は背負っていますけれど、先発隊とも合流したかったんですよ」
「そうですか……しかし」
彼女はテントの方をちらりと。
向こうの方はなんとも不安げな表情。
「申し訳ありませんが、こちらには余裕がありません。備蓄の持ち込みは多めにしておいたのですが……途中で破損してしまって。今それで立ち往生しているので、補充を期待サれるのは心苦しいのですが」
「ああ、もしかして補充で立ち寄りに来たと? いえ、それは目的ではありませんよ。けが人、全員治しますよ」
彼女は驚いて口も見開いた。
私は光聖の聖職服に瞬間着替えしていた。
それでも驚かれたがAI魔法のAMDを使って的確な回復を施し驚かれる。
やっぱり後遺症とか回復時の疾患とかこわいもんね。
テントの中のふたりはなかなかの傷だった。
ひとりは胸に大きなキズがあり鎧ごと破壊されていた。
もうひとりは軽鎧だが足が焼け焦げていて大変な状況。
どちらも意識があるのかないのかはっきりしておらずおそらくは痛みで意識混濁。
胸の傷はかばった際の貫通ツノのものだった。
もうひとりのほうは足元からの感電からの連続遠隔攻撃。
かばうおかげて即死は免れたがかわりに重傷者2名というわけだ。
多少組織が壊死していても魔法AMDと私なら戻せる。
「治療処置終了。データを元に医師に従って、適切な治療を行ってください」
自動的に排出される感熱紙じみた記録を巻き取り先程の女性に渡しておく。
ちなみにふたりは終わったら眠ってしまった。
治療痛も起こらず疲労回復に務められたようだ。
「傷が完全に治っている……! よかった、本当に!」
「これほどの治癒技術を持っているとは、なるほど単独で来るだけありますね」
「いえ、傷はとりあえず抑えただけ、なくしたものもとりあえず魔法で補っただけです。その診断書をもって医者にかかってくださいね。魔法は万能ではありませんから!」
これは絶対に言っておかないといけない。
私の昔みたいになる。
魔法の回復に体が慣れるともろく壊れるまではすぐだ。
「あ、ああ、まああんたほどの人が言うなら……」
「改めて話させて欲しい。我々が先発隊で、ここにいないひとり含めて7人構成だ」
「7人! 多めですね」
迷宮探索はだいたい最大5人である。
いろんな意味はあるもののまずは1部隊5人ならリーダーが全員に指示が通るからということがある。
迷宮では何が有るかわからないから小回りの聞く編成が1番。
そして人数が多いと相手も大きく強いのが引っ張り出されやすい。
ソレは前鋼鉄の迷宮こと地球の迷宮で起きた出来事でもある。
たくさん探索しに行ったら迷宮の環境が荒れて奥から数倍強いやつがうっかり来てしまったのだ。
大事故である。
そういうことは往々にしてあるし人数多ければそれだけ事故が起こりやすい。
まあ普段は迷宮を攻め滅ぼす必要はなく貴重な資源なのでという意味もあるが……
元々迷宮は何が起こってどうなるかのリスクが読みにくい。
全員海中に放り出されたり全員空に飛ばされる迷宮もある。
だからこそ先発隊にはより慎重さも求められるわけだ。
「ああ、それなら、俺とそいつは戦闘員じゃない、記録員なんだ」
この中で1番軽装の男女ふたりがそう言ってくれた。
記録員……つまり冒険者としての実力よりも現場の状況を引いた視点でひたすら記していく係か。