百四十八A生目 時塔
とても広い地下は危険。
同時に探らねばならない。
ということで探索用にチームを組んでいるところらしい。
「ところで今回の一連の事件、黄金の枝というものは?」
「黄金の枝とは、本来強烈な光の魔力が込められている宝具だ。それはまさしく、神のごとき力、とも。枝なので元の大樹もあると考えられてはいるが、今のところ発見はされていない。あの使用された枝は、学院の地下、ただしき心と力を持つ子どもが現れた時、初めて現れるものだったらしい。封じられているという伝承はあったものの、まさか本当にあるとはね……」
「それを、彼女たちが発見したんですね。そして黄金の枝を、教頭たち邪神崇拝者が奪った……」
「前々から目はつけていたらしい。やつら、どうやったかはしらないが、ずっと探していたようで大人や邪なものでは開けられないと悟った。それで誘導をしたのだろう」
おそらくここで言うよこしまさとは邪神のつけいるスキや邪神を崇拝する心のことだ。
いかにもあの3人はそういうのと真逆だったからなあ……
「今回、教師陣の大半と私こと学院長、そして生徒たちの大半が学院にいない時間が生まれた。本来外敵に備える仕組みは十全にあるのだが、獅子身中の虫。たまたま今回は投薬が効いたようだがね?」
エミーリア学院長がほほえみながらウインクする。
まあたまたま私が見つけてなければ……いやどうだろうか。
「でもきっと、彼らだけでもピンチは乗り越えられていましたよ。彼らはいつも学んで成長していますから」
「はは、生徒からは真逆の言葉をもらったがね。それも1つの教師と生徒らしさ、なのかもしれないな」
「まだ日が浅いので、なんとも。飛躍するには、それまでの地道な積み重ねこそが大事ですから」
実際ここの子たちはレベルが高い気がする。
ならば私の功績ではなく常日頃からお世話になっているほうが大きいだろう。
学院長は少し目を見開いて……うれしそうにはにかんだ。
「それは……ありがたく褒め言葉として受け取っておこう」
学院を褒められてまんざらでもなさそうだった。
「そして、呪い発見共々、本当にありがとう。これからも、ぜひ我が学院に」
さて黄金の枝と邪神騒動はひとまずこれで幕を閉じた。
また何か騒動が起こるときは来るだろうけれど……
私はそれまで研究したり教鞭とったりする。
私の授業であらためて3人まとめて会いに来てくれた。
「先生! ローズオーラ先生! あの後話をしっかり聞きましたわよ!」
「ルイーサさんこんにちはー。話とは?」
「こんにちは先生! ってそれよりもですよ。現役冒険者、その中でも指折りの実力者なんですってね! わたくし、冒険者の階級については詳しくないですが、あの最近現れた星を滅ぼそうとした相手に勇者とともに戦い、さらには朱竜神と殴り合って勝ち、そしてあの人形騒動で何体もの相手を倒したとか!」
「尾ひれついている気配あるなあ」
興奮するルイーサちゃんの隣でマルケルくんとゾフィアちゃんが自慢気にうなずいている。
元凶か……
「それでも、いくつかは本当でしょう!?」
「まあ、私だけではなくて、みんなの力で行えたことですから」
「ということは、事自体は事実……!」
「す、すごいですね……さすがに少しは持っているのかと」
「素晴らしいですわ先生! ぜひ私達、まだ学びたいことがたくさんあるのです。もっと、多くのことを教えてくださいな? 今度は、わたくし自身の手で、多くを守れるように!」
熱いセリフに思わずうれしくなってくる。
よし。それに対する答えは1つだよね。
「もちろん、さあ、授業をはじめますよ!」
とある日入った一報により私は次の行動を確定させる。
『翠の大陸にて敵本拠地発見』
とのことを。
それは唐突な変化だった。
緑あふれる翠の大地に珍しい不毛なる土地。
現地で呪われた場所と呼ばれる広い草木すらない荒野で突如大きめの時空渦が観測された。
そして……何も出てこない。
まあ周囲に何もなく本当に草木魔物なんもないエリアなのでそのせいとも考えられていたが……
そもそも時空渦がどんどん大きくなっていっていた。
触らぬ神に祟りなしではあるものの全冒険者がそう思うものでもない。
やはり気になって仕掛けに行った者たちもいた。
そして彼らは口を揃えてこういった。
「見上げるほどの塔がそこにある」と。
時空渦の塔。
私達のアノニマルースも探りに行って逃げ回っていた神力反応と一致することがわかった。
精密検査も済ましている。人形に付与されていたものと同じだ。
明らかに手をこまねいて誘っているのだろう。
私はここを踏破してこの馬鹿げた人形騒ぎを解決する必要がある。
アノニマルースが襲われる前に!