二百十八生目 靴服
や、やっと終わった。
服職人に全身を採寸され尽くした。
背丈や座高それに頭周りの大きさ。
胸部に腰回りそれに脚の長さ。
尾周りに耳の高さそして腕。
取れるだろうところはすべてとりつくした。
「うん、これだけあれば何とかなる。隣が靴職人だから、服と合わせてもらうと良いよ」
「わ、わかりました! ありがとうございます」
なんだかすごく疲れてしまった……
なんやかんやと服職人と話を交わして見積もりの値段と日付も出してもらえた。
出来るのは2週間後で最後に更に調整に数時間。
お金は大仕事だからと値段もそれ相応だった。
ユウレンとアヅキからもらっていたこの街でのお金で支払う。
だいぶ少なくなってきておそらく靴で終わりだろう。
結局ここではユウレンたちに返金できなかったなあ。
ちゃんと別の形でお返しせねば。
服職人と別れ隣の靴屋へ。
「やあやあ! よく来たね!! 靴? 靴かい? 靴は良いよ!」
こちらは先程とは逆に騒がしく軽く弾むような声。
しかしその声の主が……
うん、なんというか、像だ。
木像でキツネザルのような顔が描かれ彫られている。
関節はなくポンポン音を立てながら跳んで出てきた。
工房からも賑やかな声や音がするから複数人いるのだろう。
「おお!? これニンゲンの靴かい! 大きいね、良いねえ! こっちは靴なし!! 靴なしも良いけれどやっぱり靴は良いよ!」
「あ、はい」
こちらが話す前にガンガン言葉が飛んでくる。
中が空洞らしく彫られた隙間から光がチラチラと見えている。
もしかして妖精やら精霊やらフェアリー的なものが宿っている姿なのかな。
カムラさんと共になんとかおしゃべり好きな木像が話す隙間を縫って頼みたい靴の内容を伝えた。
「ほほう! おっけーおっけー! おじさんはヒール位置が低いタイプかな? それでおねーさんはヒール位置高いね! まあ測れば何とかなるなるなる!!」
「お、お願いします」
こっちでは足のサイズを測っていく。
それと途中で折れる角度やら稼働部位に肉球1つ1つも測られたが意味はあるのだろうか?
何となく木像の靴職人に遊ばれた気がする。
当然のように測りを浮かして動かしていた。
これぞ超能力か。
「じゃじゃじゃあーん! だいたいこんな感じになるよ!」
「……ふう、ギリギリ足りましたね」
「ついに無くなっちゃったか……」
木像に見せられた見積もりは所持金ギリギリだった。
もしまたこの街に頼るならここで稼がなくてはならない。
ただまた運良く暴れドラゴンを狩って売れるとも限らないからなるべくならもうこれを最後にしなくては。
ケラケラと弾んだ声の木像とお金のやり取りをして何とか終わる。
ちなみに隣と細かくイメージ合わせをしてくれるらしい。
服職人と靴職人の会話は……あまり想像がつかない。
それからしばらくして何とか木像の喋りから解放され帰路につくこととなった。
それからは私達の群れの修復をひたすら行った。
テントの残骸は片付け新たなテントは爆心地は避けて龍穴がある植物だらけ付近に展開。
テントの予備がなくなれば木造に切り替えた。
木造は制作に時間がかかるが小さな魔物たちの街から買い出しをおこなわなくて済む。
加工道具は一通り前の時に買ってある。
材料は木なので森の迷宮からどんどん調達できるしここでも龍穴付近の生い茂りポイントからたくさん調達可能だ。
何せあの植物たち、一回切り倒してもすぐに生えてくるんだもの。
すぐというのは翌日ということではなくて5分くらいで芽が切り株から生えてくる。
数日たてばまた立派になっているから恐ろしい。
今回は蛇も蜘蛛も総動員だ。
報酬は食事提供だが意外に評判が良い。
小型の虫の魔物程度ならあの熱帯雨林内にたくさんいるので食べてもらっているが、
「今まで食べたことがないくらいうまい!」
と評判だった。
なぜかはわからない。
大型である赤蛇と黒蜘蛛は外界で狩ってきた牛の魔物なんかをまるまる食べていた。
大胆だ。
一方私は……
「ほら、また口の開きが違う!」
「む、難しい!」
私がニンゲンに擬態するために訓練していた。
何をというと、口を開いて話すということをだ。
今までニンゲン語はすべて"サウンドウェーブ"を使って音波で届けていたため口を使う必要が無かった。
しかしニンゲンの街ではせめて口パクが出来ていないと困る。
だから形だけでもマスターしようとユウレンと共に訓練していた。
「あー、どうも、こんにちは。この街には――」
「開きっぱなしだと喋りになってないわよ。もっと私の口元も見ながら話しなさいよ」
「はーい」
ユウレン先生の指導は厳しい。
この群れの問題を解決するための大事な作業だ。
どうでも良いところでつまずかないように気合を入れて挑まねば。