百四十七A生目 院長
邪神が消える。
それはどうしようもない因果によって。
「がはぁ……呼び出した……体がなければ……我はまた……眠りに……ああ……!」
「もう数千年、じっくりお眠りなさい!」
「アァァ……」
ゆっくりと霧散するように邪神は消える。
私は教頭の体をその間見るが……
とりあえず心肺停止はしていたのでAMDに従って回復させた。
聖魔法"リターンライフ"はこういう時に使える。
「さてこれで終わり……おや? これは……枝?」
そして教頭を探っていたら何かがポロリと落ちてきた。
これは……灰色の何か。
枝にも見える。
「あら? それは……黄金の枝?」
「力を使い果たしたんですね」
「ゾフィー! もう身体は大丈夫なの?」
「う、うん。先生がメチャクチャ片手間に治してくれた……」
「ええっ!? ほ、ほんとですわ……」
「ああ、あの先生ならそのくらいするぜ」
生徒たちに好き放題言われている気がする。
でもまあとりあえず全員無事だ。
ならばやることは1つ。
「じゃあ、帰ろっか」
私達は転移して学校のほうに戻ってきた。
全員驚きつつもさすがに魔術学院の生徒。
納得するやら感心するやら調べたがるやらといった様子。
学校ではやはりいまだ静寂なままだった。
そりゃそうだ。
まだ日があけるまで時間がある。
というわけでその場で解散。
怪我はちゃんと診てもらうことを告げてみんな眠ることにした……
「とんでもないことになりましたね」
「とんでもないことだったんですか、やっぱり」
学院長室。
学院長はこの日にやっと帰ってきた。
ぶっちゃけ私がやったのは弾丸をぶち込んだだけなので事情もなにもわからない。
あの3人は正式な治療をうけつつ事情聴取に応じている。
「ところで学院長の方は……」
「ああ、あれ? 誰かに呪われていたみたい。しかもわかりづらく、少しずつ私の力に枷をして、抜き取るような、ね」
「え、おおごとじゃないですか」
「おおごとさ。なにせ仕掛けた犯人は教頭なのだから」
「ああ……」
そこに繋がって来ちゃうのか。
つまり全部起こっていた出来事は1つに集約していたらしい。
「まず教頭。彼はまだ意識が戻らないが、現在完全に拘束して記憶をのぞいている。全容把握には時間がかかると思ってくれ。わかった範囲でいうと……彼はここにくるまでは善良だったということだ」
エミーリア学院長はその美貌を曇らせる。
話を整理すると……
「つまり、洗脳とか催眠とか、その類だったと?」
「可能性がある。というより、そうでなければこの学院に到達するまでに弾かれるはずなのだ……もし誰もが持ちうる程度の向上心や自尊心を、学院に入った後に操作されていたとしたら、それは由々しき事態だ」
「外側からの攻撃には強いけれど、内側からの攻撃には弱い……ということですね」
「ああ。内側に……この学院地下の空洞に、邪神がいるとは。幸い、1つはどうにかできたようだが……」
「複数いると?」
「というよりは、入り切らなかった全容というべきか……その恐るべき邪神は、約一千年前の、とある魔術使いだ」
「ニンゲン……ということですか」
「ただし、今は既に奉られて神格化されている。どちらかといえば、二度と蘇るなという意味だがね。このビール祭りは、元は邪神ほどの悪の魔法使いを、ついに倒したいう記念すべき祝祭だったからな」
「そうなんですね……それは、なんとも復活しやすい雰囲気はあります」
「忘れられない恐怖を、それ以上の悦楽で塗り替えた、ゆえに歴史としてもよほど深掘りしなければ知り得ない。ローズオーラさんが知らずとも、そこはおかしくないのさ」
なるほど対策としてはアリだろう。
忘れ去られた神はその力をなくす。
信仰力が集められてないんだから。
ただ世の中そう簡単でもない。
「ローズオーラさんにも話しておこう。表の人々とは別に、闇の中では未だに根強く、かの名も失われし邪神を信仰しているものが絶えない」
「……人為的に引き起こされた、と?」
「結果から言えばそうだろうな。邪神は眠っていた。揺り起こすのは人の手だ」
「厄介ですねそれは……まだ全容は見えないということじゃないですか」
「学院の中ではないだろうが、すぐ外の街ですら、どこで何を拾うかわからないとなるとな……なんともツラいところがある」
私はエミーリア学院長の言葉にうなずく。
それこそビール祭りで街に出かけたら帰ってくるころには何か仕掛けられているかもしれない。
そんな危険性の話だ。
「学生たちは、どうするんですか?」
「むしろ、学院内のほうが安全なのはかわりないからね。表面上はそこまでかわりなく……問題は、地下だ」
「あれは地下……何が有るかわかりませんもんね」
新たな遺跡がもたらすのは幸運か不運かまだまだわからないのだ。