百四十六A生目 先生
邪神はこのタイミングでさらに伸びてきたルイーサに押されていた。
もうすでに植物の的確な援護はない。
それなのに接近は素早く拳はえぐるように。
炎の魔力が溢れ出し全身が火の粉できらめいて見える。
全力でその身をこがさんばかりの力。
まさしくルイーサちゃんの覚醒した形態といえる。
「わたくしの友達に手を出したこと、後悔させますわよ!」
「ああ、俺も!」
そして全力全開のルイーサちゃんに対峙する邪神は不意を突かれる。
マルケルくんの槍は鋭く邪神の脇腹を突く。
そちらを吹き飛ばした瞬間にルイーサちゃんの拳が頬に鋭く突き刺さった!
「ハァッ!」
マルケルも盾でしっかり受けている。
口の中を切ったらしく血が垂れるが軽傷。
そして邪神は。
「わたくし必殺のぉーっ!」
「何……?」
「連続! 乱撃炎舞!!」
ここで決めに行った。
ヒットアンドアウェイを意識した1撃ではなく……
1撃1撃で相手を浮かしコンボを叩き込んでいく。
やがて浮いた相手に蹴りを入れて。
そのまま空中に連撃。
燃え盛る炎が舞うようにトドメまで叩き込んで……
拳で地面へ叩き込んだ!
「グウッ……!」
「どうだ……!」
「なるほど」
「えっ!?」
そこで邪神はすくりと立ち上がる。
驚愕に顔を歪ませる面々。
しかし……
「ふむ……あまりに脆いな、ニンゲンの身体は」
皮膚が焼けた腕を振るうと力なくだらりと垂れ下がった。
骨が折れているうえにもうパワーがない。
抵抗するエネルギーなど残されていないだろう……本来ならば。
「このままでは無為にまた眠る、か」
「さあ、邪神よ、また千年の眠りにつきなさい!」
「そうは、いかんな」
ルイーサが力を振り絞り拳を当てる。
しかし強烈な魔力の圧により阻まれた。
それは先程までより大きく歪んでいて……
神力のある邪神そのものの圧倒的なエネルギー。
空中へと浮き上がり杖は落ちる。
……教頭の全身が砂のように散り始めていても。
「そんな……まだそんな力が! いえ、先程まではなかった……まさか、自爆!?」
「こいつ! このうわっ!?」
マルケルが浮かんで追撃。
しかし槍は激しく弾かれる。
魔力がほとばしり雷撃のような光が起こる。
マルケルが着地するころにはどんどんと魔力が収束し同時に溢れ出している。
矛盾した道行きのエネルギーは漏れる先がなくなり……
爆発する。
「ゾフィー!」
「なんとか、俺が!」
「みんな、逃げて……!」
三者三様に動き互いに庇うよう動いて。
そして一層輝きが強まった時。
「さあ、せめてその絶望を糧に、次はより強くよみがえろうではないか。いざ……」
一瞬あまりに濃い光の影が彼の周りを覆う。
爆発する。誰もがそう思った時に。
「グハッ!?」
「「!?」」
着弾。
ほぼ同時にターンッ……という独特な破裂音。
「命中」
低く伏せた姿勢。
遥かに遠い位置。
静音と精密を重視してゆっくり築き上げた陣地でただ1回のチャンスをまち続けエネルギーをため続けた。
私だ。
ずっと魔力とパワーを狙撃銃化させたビーストセージに溜め込んでいた。
音のないそれを暗闇の中構えていたら……
気配なき1撃に他ならない。
邪神はその性格上まるで探知を広げなかった。
それにこちらの情報は完全に未知。
対策しようがなかったのだろう。
一番の懸念点である発射時の発光は私の陣地内で撃つことにより極力おさえた。
まあ避けられても曲げて当てたもののやっぱり直線運動のほうが威力は高い。
ほんの僅かな異変ならバレることはない。
もし敏感に探知していたらまた別だったんだけれど。
「私の魔法、それは混ざったものを分ける魔法……」
聖魔法"セパレーション"。
これにより教頭の身体から邪神がメリメリと剥がされていく!
「おお、おおおっ……!」
弾丸は邪神の中に神力として入り込んだ。
教頭のほうではない。
勢いのまま確かに1つになっていたそれらが……ベリッと剥がれ吹き飛ぶ!
「ば、ばかな……!?」
「一体、今のは何なんですの!?」
「助けか……!?」
「え、今の音、どこから……」
ゾフィアちゃんがキョロキョロしているなかとりあえず私は向こうへと転移。
目視できているのでいける。
私を見たら全員ひどく驚いた顔になったけど。
「だ、誰ですの!?」
「ええっ!? 先生!?」
「ローズオーラ……せんせい……?」
「余計だったかな? 私がいなくても、ほとんど対処できていたみたいだけど」
「いえ、正直助かりましたが……い、今の威力って……」
ルイーサが驚きひくついているのはともかくとして。
邪神はその体を完全な霊体としてあちこち彷徨わせている。
あれは……もう持たないだろうな。