百四十五A生目 厄介
邪神とルイーサちゃんたちの戦闘は佳境に入る。
今のところ邪神のポイントとして力を十全に扱えないというのが良いポイントだ。
1撃1撃は即死級のも混ざっているが不意に出せる即死攻撃がまるでない。
神力を振るって絶対優位を取るみたいなことがうまく行っていないので明らかに出力不足だ。
一方生徒チーム。
マルケルくんがとにかくすごい。
前訓練したときより数段上の動きになっている気がする。
思わず私がガッツポーズしちゃうよ。
そしてゾフィアちゃん。
ゾフィアちゃんは植物と持ち前の頭の良さで順に邪神を追い詰め味方をカバーしているが……
前まではどうもガス欠になりやすかったらしい。
今はイキイキと魔法を放っている。
私の授業を受けたあと早速自前でやれるだけやってくれたということだ。
まだ1回分だけなのに……
凄まじい才能だ。
そしてルイーサちゃん。
彼女だけ知らなかったが頭一つ抜けて強いって言っても過言じゃない。
彼女だけ魔術じゃなく魔法もバンバン放っていて拳も強い。
マルケルくんとゾフィアちゃんが伸びてやっとルイーサちゃんに追いついている環境だ。
そして邪神は強い。圧倒していると言っても良い。
だから互いの連携が密にいる。
「ルイーサ!」
「合わせてマルケル!」
「そっちこそっ」
「「はああああぁ!!」」
邪神を吹き飛ばす強烈な炎の拳と風の槍。
貫き殴り飛ばしたがまだ平然と立つ。
生命力が多いだけでなく頑丈だ……
そしてある意味他人事な邪神は非常に落ち着き全体を傍観するように態勢を整える。
実際他人事なのだろう。
1000年ぶりの目覚めらしいし寝起きの雰囲気もある。
他人の身体で他人の都合で起きた機会。
確かにチャンスではあるがあくまで邪神と呼ばれるものが生き汚く真面目になるはずもない。
不自由な体を嘆くだけだ。
「まったく、これがニンゲンの体というものか。全身が怠い。体が動かん。魔力の出力は、この枝頼りか。全身を縛り上げて簀巻きにされ、寝転された挙げ句上に乗られているかのような不快感だ」
「だったらさっさと還りなさい!」
草をまとい炎をまとった拳をルイーサちゃんが叩きつける。
草は燃えることなく相手にのみインパクトと炎を伝えていた。
単なる殴りに見えて1発1発がマルケルくんの槍風より強い。
彼女なりに考えてだした自分がやれる出力なのだろう。
その効果は間違いなく出ている。
教頭のローブだったものは燃えて殆どがボロボロだ。
中の服も色々と魔力防御されていたようだが汚れが目立ってきている。
少なくない血はマルケルくんとゾフィアちゃんの力だ。
すぐ再生して止まるとは言え血は別問題というやつ。
出れば戻らない。
傷も結局魔力で癒着し塞いでいるだけだ。
「教頭なら3回は気絶するほど叩き込んでるのに……!」
「傷の方の回復ポーションももうあんまりない!」
「このような体、不服ではあるが贅沢は言ってられん。そろそろ終わらせてしまおうか」
さすがにハラハラしてきた。
回復がつきたら一瞬で詰められる可能性が跳ね上がる。
だけども邪神だって余裕はないはずだ。
互いに決着をつけるための糸口を探している。
膠着状態に違いがリソースの削り合いでもある。
「ふむ。準備は整った。この体でも、出来ることを探そうか」
邪神はつぶやき杖を振るう。
光は妖しく輝き邪神の周囲をまわる。
それは邪神の周囲を巡る光輪たち。
「ふぅっ、いったい何を……?」
「仕組みとしては単純なことをしたのみ。さあ、まずは頭を潰そうか」
「っ!」
ゾフィアちゃんの前に邪神がワープする。
瞬時に黒球体が発生しガリガリ削るようにゾフィアちゃんの身体にめり込み……
そのまま大きく吹き飛んだ!
「ガハッ……!?」
「ゾフィーっ!」
ゾフィアちゃんをマルケルが飛んでいって受け止める。
ただ……
思ったよりゾフィアに傷はなかった。
「ゾフィー?」
「あ、危なかった……ちょっと昔の記憶がいっぱい見えた……」
そして壊れた服の一部からボロボロに砕け散る花びら。
盾の植物開花が危うく命を救っていた。
そのかわりゾフィアちゃんは膝をついて荒く息をしている。
「今のでゾフィーはかなり無茶をして……許せませんわ!」
「こうなれば、お前たちはもはや、風前の灯火……何?」
そして切り返すようにルイーサちゃんが突撃する。
あわれ次の犠牲者……にみえて。
急速に加速した身体と拳が正確に邪神の影球を避けて撃ち抜く。
連続で攻めて攻めて拳がきらめく。
先程よりも強い!
「これがわたくしの! 思いをかけた力!!」
「なぜ今力が伸びている? ふむ……厄介だ」
それはまさしく青々しい春の力だった。