百四十四生目 邪神
「私は深淵の神……ふむ、全力からはほど遠いが、いい気分だ。千年ぶりの肉体とはな」
教頭の顔は先程までのおじさん顔と変わっていた。
今はまるで伝承の悪魔みたいだ。
目が黒く瞳が赤い。
顔全体も生気がなくいかつくなっていた。
「ふむ、片付けるとしよう」
途端に先程までの雷撃ではなくなった。
杖からはどんどんと巨大な影の塊みたいな魔法を生み出し多数放つ。
速度ははやくない。
むしろ遅いくらいだが量が凄まじくそして放つ邪神自体が早い。
瞬間的に転移して移動し様々な方向からその魔法を放ってじわじわ追い詰めている。
「この魔法、明らかに込められた威力がやばい……!」
「私がチェックする! それまで手を出さないで!」
地面から急速に花が生えると一気に種を連射しだす。
進み続ける影の球たちにぶつかり煙を上げて……
そして何事もなかったかのように直進してくる。
「なっ!? 全然威力が削れていない! あれは受けちゃだめな魔法だよ!」
「わたくしなら、問題ありませんわよ!」
ルイーサが拳に力を込め再度飛ぶ。
球が邪魔なのはあくまで普通に戦闘しようとしたら。
邪神に食いつくように飛んで殴りかかればそうでもない。
邪神側も対応して先程見せた魔力を使った格闘で応戦していく。
おお。ルイーサって子強い。
明らかに戦い慣れている。
何十発ものの応酬はあれど互いに決定打がない。
最後に互いの大きな魔法をぶつけ合い衝撃で距離を取る。
「「そこっ!」」
背後に回っていたマルケルとゾフィアが一気に攻め立てる。
マルケルの槍の風にたくさんの種弾が乗って避けにくく威力の高い攻め。
明らかにマルケルのキレが前見たときより増していてそのまま急接近。
魔力障壁と自身の靭性で受け切る邪神。
冷静に迫る槍先をみて体捌きで避ける。
マルケルも冷静に返されても慌てず絶妙な距離を維持する。
無駄攻めせずに盾の力で緩衝していく。
そしてスキマを狙うように槍を振るい確実に攻めていく。
邪神の身体の傷はすぐに塞がるものの体力は少しずつ削っていく。
うんうん。これは彼らが乗り越えるべき戦いだ。
私がやることは添えるだけ。
「前までこんなに長く戦ったら、道中で力尽きていたけれど……学んだ効率術、本当にすごい。まだちょっとしか理解できていないのに、もう倍は効率が違うみたい」
「ゾフィー、ちょっと総エネルギーが少ないことがネックでしたものね。それなら、今からわたくしに合わせてもらえるかしら?」
「もちろん! まずはこれを!」
ゾフィーとはゾフィアちゃんの呼び名だろう。
ゾフィアちゃんは種をルイーサの手へ投げる。
種はすぐに発芽して腕全体を緑の蔦で覆った。
「ありがとう、これで思いっきりぶん殴れますわ!」
そういえば彼女素手だったなあ。
素手よりもやはり何か拳につけたほうが人体構造的に思いっきりいける。
ニンゲンの手は思いっきり殴ると手の方が痛くなるのだ。
「そして、合わせる!」
「行きますわ!!」
ちょうどマルケルくんが岩盾で相手を殴りつけたとき。
魔力で無理やり吹き飛ばされたその影にふたりは駆ける。
ルイーサちゃんのほうが圧倒的に足がはやいがソレ以上に地面から伸びるツルの速度が早い。
それは地面を割るほどに大きく。
まさしくルイーサちゃんが乗って高速で移動するにふさわしいサイズだった。
まるで波にのるようにルイーサちゃんは乗りこなし空中にいる邪神へ殴りかかる。
「なるほど、そう使うか」
「はああぁ!!」
1撃いなされても問題なくそこには別の巨大ツル。
連続でのりこなし攻めていけば確実なダメージを与えられる。
だが。
「こんなもの、切ってしまえば」
「まだまだっ!」
当然ツルはツル。
邪神の影からでる鎌でざっくり斬り裂かれる。
硬く大きいので多少はかかるといっても1本数秒程度。
しかしかわりにゾフィアちゃんが回復薬で行動力を回復しながら一度にいくつも種をばらまく。
また砕けたツタからも種がこぼれ……
どれもこれも発芽しやがていくつは槍のように伸びて邪神を撃ち抜く。
「ほう」
実際痛覚などたいしてないのだろう。
致命傷は避けつつも動きの阻害になるものだけ拳で破壊している。
さっきから見ているとやっぱりパワー型だよなあ。
まあ邪神が技術に長けていても困るけれど。
さて飽和してきた影の球たちはツルの葉にぶつかったり彼らの攻撃に弾かれたりとかなり危険な狭さと動きになってきている。
ここからが危険の迫る環境だ。
ほんの少し動き回るだけでもチリチリと彼らの肌を焼く。
濃い魔力の塊は近づくだけでケガを負わすのだ。
生徒たちも魔力でガードしているとは言え万能ではない。