百四十生目 洪水
そんな学院ですごす日々の夜。
とは言え私は私で別の仕事をしていたりする。
アノニマルース書類関係もそうだし翠の大地に潜む敵もそうだ。
まだ尻尾を掴ませないがみんなが全力で追っている。
私の気配があそこにない状態ならばまた顔を出すはずだ。
まるで私を誘って空振らせているようにも見えるが……何をするにせよ絶対捕まえる。
さて夜の合間に研究を……とやっていたのだけれど。
「ローズオーラ先生、明日は休みですし、ビール祭りへ行かないのですか?」
「……あっ、ビール祭り。すっかり忘れていました」
他の先生に誘われ街にでることにした。
超巨大なお祭りとだけ聞いているビール祭り。
正直よくわからなかったが学院の下の街に行くだけですでにその催しが見えた。
街は飾りこそ無いがあちこちに当然のようにビール樽置いてあるし氷魔法使いがビールを飲みながらビールを冷やしていた。
「今ならできたてビール! よく冷えてできてるよー!」
「ビールばかりでは体を壊す! こっちにソーセージだ!」
「ビール、アンド! ポメス! これを忘れては話にならない!」
あちこちで声が飛び交いついでにビールの泡も飛び交っている。
すごい賑わいだ!
「いやあ、学院街のほうはやはりまだ静かですねえ」
「えっ、これでですか!?」
「観光客は基本的に少ないことと、やはり学生は学びが本文ですから。ほら、ああいうのも」
じゃがいもぽいものが魔術道具に放り込まれる。
魔力を込めているとやがて中でガチャガチャと音が鳴り……
下から等分に切られたジャガイモが出てきた。
ジャガイモはそのまま大鍋に放り込まれ……
唱えると鍋がどんどん加熱して。
やがて勝手に上から中身を放出する。
そして赤い調味粉をかけてポメスという料理ができていた。
ポテトだこれ。
「やはりみな、作るのにも工夫を欠かしませんな」
「我々がいるとテストのようになってしまうので、素直に都まで行きましょうか」
最後にヒルデガルド先生がそうしめる。
私達は足早にそこを去ることとなった……
先生たちのうち半分の集団なので見るものが見ればローブの圧が強すぎるのだった。
さて学生も教員も学校の外では制服を外すのがしきたりとされている。
もちろん学院関係者だとあらわすときは着用するが。
私達は乗り込んだ汽車のなかで手早くローブを片付ける。
みなさんのローブなし姿はじめて見た。
エリック先生は自前のローブに着替えた……
私は意識して瞬時着替えすることで冒険者服に。
「おおっ、今のはもしや、使い手が少ないという瞬時着替えの秘ですかな?」
「あ、そうです、多分それです。種類としては完全に魔術なんですけれど、体系的に成り立っておらず、教えられる人が直接教えているのが、現状ですね」
「エリック先生、今のは珍しい魔術なので?」
「そうですよ、ベン先生! 文献ではありましたが、まさか本物を見られるとは! それは一体どこで!? まさか貴方が教えられるとか?」
「いえ、私は……それに、この魔術は、相手を見つけ出すのも試練、そう教わりました。この国家付近にもいるかもしれませんが、私は知りません」
「そうですか……さすが幻の秘術……」
「エリック先生、そのようなお話は学院の中でしてくださいな」
ヒルデガルド先生は公私しっかりわけたいらしくそう締めた。
私達は汽車からの美しい眺めを堪能したあと都市の駅へとついた。
それでもうおかしいのが一瞬でわかる。
明らかに浮かれた飾りがたくさん飾られていたからだ。
学院街ではさすがにそこまではしていなかった。
黄金色に輝く草飾りのそれはビールの麦だろう。
すでに中身は抜かれているか使えないものをより集めたのかな。
もちろん草飾りだけではなく祭り用にたくさんのものが制作し置かれている。
やはり1月も使うせいかどれを見ても頑丈そうに制作してあった。
多分毎年使っているだろう。
毎年使うならば少しずつ飾りを増やしていけばやがて飽和する。
年々豪華になるから余計にいいね。
周りを見渡すとそういって歴史が見えてくる。
そして。
駅から外へ向かうと情報がワッ! と襲ってきた!
ビール! 酒のにおい! 大量の話し声! ニンゲン量産! 視界の端から端までビールの品!
「わぁ……!」
最初に来たときはこんなんではなかった。
これはすごい。
すごい……が。
「……ローズオーラさん? なぜ顔を覆いだしたんですか?」
「情報の洪水で、つい……」
「ははは、ローズオーラさんは他国出身だったなぁ、これをみたら、初見の観光客は圧倒されるのは間違いないからなあ」
はー、情報で倒れるかと思った。
いまだくらくらしながらも私達はビールで溺れるような都市へ足を踏み入れた……