二百十七生目 採寸
「見た目と身分を偽って結界と門をくぐれば後はほとんどザルじゃろうが、中の衛兵たちにも気をつけなくてはな」
九尾に九尾が知る時代のニンゲンたちの様子を色々と話を聞いた。
それで出来る限り不審にならないようにするヒントが色々と貰えた。
ニンゲンと共にいたカムラさんはともかく私には重大な話だ。
そして出来る限り本物の身分を手に入れた方が良いということも。
あらゆる嘘よりも本物の方が圧倒的に強い。
1番私達がやりやすいと思われる冒険者に何とか登録すれば……あとは散策しても怪しまれないだろう。
「それでじゃ、格好の偽りの方はこの街に腕の良い服職人がいるから頼むと良い。ニンゲンたちに怪しまれないような服をじゃな。素っ裸と燕尾服では死ぬほど目立つからの」
「す、素っ裸て!」
思わず身を寄せて何かを隠すようなポーズを取る。
いや今までこうだったから今更恥ずかしいも何も無いんだけど改めて言われると……
一方九尾は冷静に呆れた目を向けていた。
「人間の街ではその状態は素っ裸って言うんじゃ、わかったら向こうでは人前で脱がんことじゃな……」
なんだろう、ものすごく私が悪いみたいな気分になってくる!
カムラさんはニコニコしているだけだしドラーグは頭にクエスションマークを浮かべていた。
九尾家での話を終えて小さい魔物たちの街へ。
九尾はこれから私たちに合わせて侵入用のモノづくりをしてくれるそうだ。
ただ数日かかるそうだからその間に同じく時間かかるだろう服を整えることに。
当然この街に基本的に売られている服はどれもこれも小さい魔物用で私たちにはあまりにも合わない。
なので紹介してもらった服職人に直接会いに行くわけだ。
場所は商店街から離れて一見住宅街に入った所の裏道。
それとカムラさんは滞在許可証がないため衛兵詰め所へ。
アンデッドなことには驚かれたがとても常識人だったため難なく許可を貰えた。
活気や人通りとは無縁だがそこには主張しない看板たちが立ち並んでいた。
ここは通称職人街。
商店街に卸す商品を作るための店が立ち並んでいるわけだ。
とは言っても見た目はみな同じような家か倉庫かわからないようなところ。
慎重に名前を間違えないように見比べつつ1つの店をやっと見つける。
ちなみにドラーグは大きすぎるので影に入ってもらった。
「ごめんくださーい」
「はーい」
私の140センチですら大きくカムラさんの180センチ弱あるサイズでは店の屋根に届きそうなほどなために外から呼びかける。
返事はすぐに返ってきて小さい魔物が出てきた。
この街では珍しく全身を着込んでいる。
種族は……カワウソかな?
「おや珍しく大きなお客さんで」
「ええ、なのでオーダーメイドしたくてきました」
迷った理由は尾が多く枝分かれして触手のようにうねうね動きさらに先っぽも指のように2つに割れているせいだ。
うーんまあ、魔物だからなあ。
ちなみに触手たちにすら服が着せられていて服屋であるのがひと目で分かる。
「何か、イメージみたいなのはあるかい?」
「ええ、ちょっと変わったものが必要でして……かくかくしかじか」
静かだが凛とした声に答える。
ニンゲンの街へ変装するためにという部分は伏せて私とカムラさんふたり分を依頼した。
その中身にちょっとクエスションマークが浮いていたようだが最終的には承諾してくれた。
「ふむ、だいたいわかった。じゃあ、採寸するから動かないで」
「よろしくお願いします」
服職人にカムラさんが答えると服職人の触手たちがせわしなく伸びて動き出した。
工房の方へ伸びた触手が大きさをはかるための道具であろうものを持って別の触手に渡しグンと伸びてカムラさんの頭の方へ。
うん、やはりだけれど書いてあるのが前世のとまったく違う単位だ。
カムラさんが測られている間ふとあの迷宮の事を思い出す。
とりあえずみんなにはアレのことは話していない。
私のようにいたずらに混乱を招くだけだ。
[小世界製作者 小さい新たな世界の製作者として認められ扱う事が出来て同時に責務を負う]
この奇妙なスキルがいつの間にかログにあった。
さらに新鮮な経験ということでレベルもさっくり上がっている。
このスキルの責務を負うという言葉は何となく嫌な感覚を伴った。
私があの迷宮に勢いで地球なんて名前をつけたのも、積極的にいじりそして隠そうとしているのもこのスキルの影響がある……?
それにあの迷宮が製作者として私がいるように他の迷宮にも?
「はい、だいたいわかった。次はキミ」
「あ、わかりました」
思考に耽っていたらカムラさんの採寸が終わったらしい。
私に声がかかったのでカムラさんと場所を交代する。
そして私の方へと触手がグンと伸びてきた。