百三十六生目 効率
私の授業は順調に進む。
「さて、魔法は多重の変換のため、効率が悪いです。そのため、みなさんも研究を数日にわけて実戦することがあると思います。大変ですよね? では、まず魔法というものの効率面を詳しく見ていきましょう」
私は黒板へ縦に漏斗のような図形を描いていく。
そして大小様々な粒も。
「さて、とりあえず食事からのエネルギーを体内エネルギーにする部分は置いておいて、体内エネルギーからの変換です。イメージでは、体内エネルギーはこのように様々な大きさの粒で存在していると考えてください。この粒が通ると魔力が練られますが……」
絵を黒板にかいて移動させていく。
大きな粒の間を小粒が必死に通り漏斗の入り口で詰まって……
そしてその先に僅かな液が溢れ出していく。
そして周囲に飛び散っていく球体たち。
「変換しないと魔法は使うことができません。けれど、その効率は比較的悪いのです」
液の次の漏斗では容器が複雑なカタチになっている。
それなのに真のゴールは1つの道のみ。
液体が容器を満たしていくのを描く。
「魔法が発動すれば……残りの魔力……つまりこの液体は魔法という色がついてしまうので、全部捨てられます。もったいないですねー」
使い回しは構造上難しい。
一回霧散すれば属性を得たエネルギーとして拡散するので呼吸や吸収で得られる。
場のエネルギーを使った魔法というものもこれで生まれる。
「魔法にもよりますが、1回の魔法においてロスはよくて7割、難解な魔法などで9割と言われます。このロスが大きすぎて不発や出力不足、それにすぐ息切れするのが、一般的に言う才能のないヒト、の状態だと私は考えています」
もちろん才はほかにもある。
興味。倫理。想像。
ただ魔術学院にきて学ぶものたちに今問う範囲ではない。
まだ学年が浅い子たちから困惑の声が消えてくる。
逆にゾフィアたち高学年は理解している顔でうなずいていた。
元々はいろんな保護との兼ね合いでこうなっていたんだろうけれど……
鍛えていくものにとってはいっそ邪魔になるときもある。
生物の基準的な強さをどんどんと超えていくものたち。
彼らにとっては重大な差になる。
「これらは基本的に個人の能力に左右され、それこそが魔法使いの資質ともされてきました。同時に、より便利にしようと工夫する人々の戦いも……まあ今回は歴史の授業ではないので、ヒルデガルド先生あたりが1番詳しいでしょう。ということで
資料の内容のほうにうつっていきます。それは……」
私はみんなの顔を見渡す。
そりゃあそうだ。書いてあることをまったく見ないものなんて誰もいない。
私がザンネンがらせるためにこんな話をしてきたわけじゃないのくらい知ってるだろう。
みんなの顔は期待に満ち満ちていた。
「だれでも出来る、魔法の効率化の考え方、です!」
「──とまあ、魔法の面白さをもっとカジュアルに、実践的にするのが私が担当する授業になります」
鐘の音が響く。
ヨシヨシなんとかまとめられた……
おっと生徒のひとりが手を上げている。
低学年の子だ。
比較的年齢層高めなので浮いている。
「先生! 先生は現役冒険者なんだろ!? 実際どれほどつええんだ!? なんだか魔法はちょっと見せてもらったけれど、先生なんだか弱そうに見えるし!」
わあそっち方向。
でも想定していた話でもある。
エミーリア学院長もわからなかったのだから。
「ええと、では時間もないし、やりすぎるのも怒られるので、とりあえず……」
私は片手を上げて地魔法を放つ。
あと意図的に魔術行使認識阻害術をやめた。
私が練り上げて魔法を発動するその瞬間までしっかり周囲に伝わるように。
本来なら気づいたときには唱え終わってるくらいの隠し方が理想だ。
「な、なんて美しい魔力……」
「ええっ!? なんなんだあれ!? でかい!」
「うお、おおおおっ!!」
私の上空にてあっという間に出来上がる岩塊。
空に輝くは魔力で構成したそれ。
普段は大地を使うけれど剥がしたら怒られるので純魔力製だ。
「きれいな魔法……」
「むしろこわいほどだ、あれほど簡単に練り上げるなんて」
「ロスが全然ない? しかも周囲のエネルギーを効率よく作り上げて……」
「私の得意魔法は、地面に関すること。それじゃあ、今日の授業はここまで!」
私は手を握ると魔法の構築を崩壊させる。
するとまるで嘘のように岩塊は霧となってきえた。
魔法完成前ならこんなものだ。
場が騒然となるなかこの時の授業を終えた。
私は今日時間をあけて3つ受け持っている。
ソレまでは他の先生の手伝いだ。
ある意味平和的な時間で……
私はそんな時が次の戦いまで続くと考えていた。