百三十五生目 教科
ゾフィアは明らかに背が小さいので目立つ。
大人組も遠慮して少し距離をあけているくらいだ。
「ゾフィアさん、こんにちは、昨日の今日なのにわざわざここの講義をとってくれたんですか?」
「あら、もう名前を覚えてくれたのね! ええ。昨日はよくわからなかったけれど、ローズオーラさんは現役冒険者なんですってね! 現役冒険者しかしりえないような話、聞けるならお得かと思ってね」
今回の触れ込みはそこだ。
学院に認められるような魔法を開発した現役冒険者が教鞭をとる!
というもの。
そう私の論文は学院で認められる運びとなった。
そのかわりエミーリア学院長はいなくなってしまったが……
名目上は休暇だが実際は精密検査である。
魔法の波長の一定的な乱れ。
それが習慣からくるものなのかもっと怖ろしいものなのか……
データを元に詳しい医者のもとでしっかりみないといけないというのが保健先生の見解。
安心ならいいのだけれど。
さてはて授業の方。
鐘がなると同時にスタートとなる。
「みなさんこんにちは、この授業に来てくださりありがとうございます。ローズオーラというものです。この講義へ来てくださった方々の多くは現役冒険者という触れ込みで来てくださったと思います。とはいえ、ここはあくまで授業、冒険しているときのエピソードは個人的な話の時にしましょう」
ニコリとすると軽い笑いが広がる。
大人組はこういう時の気の回し方はさすがである。
アイスブレイクのためなら天気の話でだって笑ってくれる。
「さて、教科書というほどのものではないですが、各々見やすいように資料を配っていきますね」
私は紙にすってきた資料を配っていく。
学校は紙がたくさん使えて良い。
印刷は魔法機械で行える。
さすがにコピー機みたいな便利なものはないものの似たようなことはできる。
手書きはしんどいからね……!
「今日の授業は、これは冒険者だけの悩みではないでしょうというところから始めます。冒険者たちは外に出ていくため頻繁に貯蓄とのこりもののやりくりに悩まされます。それの最大は……体力と残エネルギー。手持ちの食事とやりくりしつつ、旅をするためには効率が最大限重要です。ということで今回は……」
黒板にちゃちゃっと書く。
「やってみよう! 魔力効率化ー!」
わーいパチパチパチ。
心の中だけだけど。
「大半のここの人々は、体内エネルギーの大小はあれど、まずコントロール、次に最大出力を上げること目指し、日々研鑽をかさねていることと思います。まあそれはただしいんですけどね。特に基礎魔法より応用魔法を多く使うことになる、学院のみなさんは多様の魔法を求められ、扱えることが求められるはずです」
黒板には補足を書いていく。
[基礎魔法→個人の能力から発せられる魔法。属性に偏って覚える]
[応用魔法→開発された魔法。用途に沿って覚える]
厳密な定義で言えば違う。
例えば基礎魔法を再現するために開発された魔法もあるし……
基礎魔法で応用魔法のような効果を発揮できるものも多く有る。
「そしてここからは、習ったことのある人とない人があるでしょうけれど、魔法変換時のロスについてです」
小声で囁かれる声については主にふたつ。
ロス? というほうと。
ああ、あれには困らせられるよね。というもの。
ちなみに授業中は妨害さえしなければ会話は普通にする。
先生がいきなり質問を投げるし生徒がいきなり質問を投げるのもあり。
そういうスタンスなのを昨日感じた。
「高学年の方は知ってますよね。では、そのいかにも答えられます! って顔しているゾフィアさん、魔法使用時のロスについて軽く触れてください」
「はい! 魔法の力は、自身のエネルギーと周囲にあるエネルギーを織り込んで吸収し、魔力として錬成、さらには魔力を魔法に変換します。そのさい、2度の変換によるエネルギーロスを指します。ロスしたエネルギーは周囲に拡散します!」
「はい、そうです。慣れたものたちほど、二度の変換がスムーズに行えます」
私はミニワープでゾフィアの近くへ飛ぶ。
「え? わっ!? うそっ、いつのまに!?」
「ゾフィアさん、さすがですね! では、この変換なんですがそもそも……」
ミニワープで戻る。
「……自身のエネルギーのほうから手をくわえねば、どれだけうまくやっても、すぐ枯渇する仕組みとなっています。なぜなら原初の変換、食事や呼吸から得るエネルギー、そこから体内エネルギーへの変換がありますからね」
教室がざわつく。
少しはたいくつしのぎになったかしら。
「えっ、今のって……」
「ウソ、わからなかった……」
「次の魔法がはやすぎる……」
「さあ、授業を進めますよー?」