百三十四生目 編纂
ヒルデガルド先生の授業の仕方はユニークだった。
「では、ここからはこの3つの本のページを使っていきます」
空中に浮かび上がりページが開いていく本たち。
ヒルデガルドさんたち教師は繊細な魔法操作によりこのようなこともできる。
本の内容が空中に拡大され浮かび上がった。
「これが今日行う世界戦争の一部……特にここらあたりを多く含んだ供出のある、本たちです。さて日頃から話している通り、本は作者の偏見、歴史は編纂者の国の都合により書かれます。では、前回話していた、それでも共通した項目は? ゾフィア」
「はい! 戦争のきっかけとなった、クエイタリタの悲劇、その日にちと場所は一致しています!」
「そうですね。そして、起きたできごとも共通だが……」
空中で文字や絵が動いて回る。
写真ではもちろんない。
ただ本のなかには動く魔法映像が使われることもたまにある。
文字たちが重なって1つにあわさったり……
逆に並べられるほどまるで別の見解が述べられていたり。
「元凶や誰の差し金かそれに動機……そういった部分はバラバラだね。これは各国の情勢から紐解けばわかる……」
さらに本が増えて行く。
本が入れわかり中身だけ転写して去って行って……
1つのものごとに何重もかさねて検証し解説していく。
なるほどこれは少しの本の量ではできないし本人の知識量が問われる。
歩く本棚ヒルデガルド先生の活躍っぷりを私は後方から眺めているだけだった。
とはいえどう授業を進めるのかというを見せてもらうのが目的だからただしくはあるのだが。
「いいですかみなさん。本を捨てて外へ出ていくためには、まず本をこうして得ねばなりません。まず本を手にとってください。そこにある多数の偏屈を、多くの視点から見る面白さを得てから、歴史の全貌を少しずつ眺めましょう」
鐘の音が響いて締めの言葉と共に展開されていた本の内容が消える。
私は浮いた本を回収しまた台の上に並べだす。
「最後に、さきほどの騒動は、学院長自らが問題なしと判断なさいました……あなたもくれぐれも気をつけるように」
「あっはい」
最後の気をつけろというのは私にだけ聞こえるように呟いた。
わあバレてる。
学院長が捕まってゲロったらしい。
学院長大丈夫じゃないですよ。
とんでもないことになってますよ。
私は無実です。
試験こなそうとしただけなんです。
そんな想いもむなしく授業が終わる。
その後はまた別の先生がいるところへ向かわされた。
この日だけで複数の先生と会ったが全員個性が強かった……
個性で受かってるのか試験ってくらい強かった。
やっぱりヒルデガルド先生は常識枠に入れていいと思う。
そして常識か怪しかったエリック先生は……
「あ、エリック先生」
「おお、ローズオーラさん、これは、これ……は……」
「どうしました?」
「ふおおおおぁああああ!! ひええええ、か、完璧すぎるううううぅぅぅ!! ふにゅ」
「先生!?」
私を見るなり泣き叫んでぶっ倒れ授業放棄しかかった。
なんとか私が治療したのでよかったが……
今度は褒め称えられるやら教室内がローブとマネキンだらけで気味が悪かったやら。
私がこの黒スーツに着替えたのがたいそう気に入ったらしい。
あと単純に回復魔法についても生徒たちと一緒にわーきゃー騒がれ見せるハメになる。
基礎魔法なので見てもそんなおもしろいものではないのだが。
そして私はその日の業務を終える。
実際研究を推し進めるにしてもまずは論文でカタチにした部分を固めるのが先だからだ。
エミーリア学院長待ちとも言う。
翌日は早速私の授業をするために庭外へ向かう。
ここでは臨時講師がたまに青空教室を行うのだ。
専用教室を毎度用意していたらキリがなさすぎる。
それに私が教えることを期待されているのは冒険者としての実践的な方向だ。
中の自由教室より外の方がうってつけというわけだ。
今日のテーマは……みんなだいすきロスカットだ!
ちらほらと教室には学生たちが集まっている。
ちなみに学年はフリー。
集まりは悪い方だろうが問題なし。
なにせ突然カリキュラムに割り込まれたのだ。
興味はあれど予定があってしかるべきで。
むしろ突然でこれだけきてくれるのは驚くべきことだ。
大人の学生もいる。
むしろ受けに来た学生の大人率は高い。
大人たちはそもそも職と兼ねて学びに来ていたりしてガッツリスケジュールを組んでいないのだ。
それこそ学院下の街で暮らしていたりする。
そうでなくても汽車で休日来たりしていたり自由だ。
さて年齢層高めな授業になりそうだと考えていたところ……
「あ、今日は先生になってくれるって聞いたから!」
先日のゾフィアもここにきていた。