百三十三生目 本山
ノーツの修復は単なる修復では終わらない。
たまった経験値を消費して大型アップデートが入る。
ローズクオーツもそうだ。
一般的にいえばそれは……トランスとなる。
彼らの傷は強くなるためのきっかけだ。
きっと大きく変わってくれるだろう。
さてそうこうしていたらたどり着いた。
ヒルデガルド先生の教室はこういってはなんだが普通だなというのが第一印象だ。
まだ先生はきていないが普通の講義室っぽい。
もちろん魔法であれこれ浮いていたり何に使うのかわからない道具たちや広い世界を支える者たちのミニチュアみたいなのはあるが……
地球儀じゃなくて天動説なそれを置いてあるあたり魔法の解釈につかうのかしら。
でもまあこの学院内では普通な見た目だ。
そして先生はまだだが生徒たちはもういる。
「誰だろう……新任の先生?」
「こんな時期に……? 不審者ではないんだよな……」
「不審者そのものだったら、とっくにフェアリーズが追い出しているはず……」
この授業は比較的高学年にあたる者たちらしくざわつきながらもみんな大人の対応だ。
ここの学校は学年制ではなく単位制で受かればだんだん高位の授業が受けられるらしい。
義務教育寄りの面々を集めるのではなく学んでより成長したい面々を集めているらしい。
ただ普通は飛び級しなければ1年ずつ階段をのぼるため半分くらいが似た年代になる。
それが今の状況だ。
なので。
「ちょっとあなた!」
「あ、はい」
「貴方は誰なの?」
「ローズオーラです」
たまにこうやって明らかに小さな子が紛れている。
いわゆる才女というやつだろう。
勝ち気そうな女の子が私に誰何してきた。
「あ、どうもこっちはゾフィア……じゃなくて!」
「はい、ゾフィアさんですね、ご要件はどういったことで?」
「あなたさまは誰かって言ってるの! 名前ではなく、身分、立場、証明証!」
おおケムにまこうかと思ったらちゃんと切り替えしてきた。
かしこい子だ。
ツッコミ適正がある。
年齢が高い面々は考察を優先しているし小さめの子は私の周りにワイワイ集まりだしている。
わかりやすい違いだ。
私は先程もらった資料の中から1つの身分証をひっぱりだす。
「はい、今日は講師補佐を担当している、臨時講師です」
「ふえぇ! ほ、本物…、! 珍しい……! 一体どうしてこんな時期に?」
「まあ、私はたまに来ることにしているからね。今後ともよろしく」
「ご、ごめんなさい。さっき、何かこわいことがあったから、その危険な相手が潜り込んでいるのかと!」
「危険?」
「さきほど、学院全体を覆うような、悍ましい気配が一瞬だけあったのです。他の先生方の見解では、人間のそれではなく、なにか恐ろしい魔物か、はたまた神の如き特別な魔力の持ち主かと……施設全体の防衛見直しになるかもという話も出ています。学院長もいるので、よほどのことは起こらないとは思いますが、もし敵対せねばならない相手ならば、国家の危機に相当するとか……ってなんでわたしが解説を!? 先程の強い魔力、全員感じたはずでは!?」
周囲の面々もうんうんとうなずいている。
エミーリア学院長さんへ。
あなたの思いつきで国がヤバイ扱いです。
「ワー、シラナカッタナー」
「なぜ強烈な棒読み!? あなた、魔力の感じからまったく強そうに見えないけれど、何か知っているの!? 大丈夫なの!?」
次やったら私が討伐されちゃうんで勘弁してくだーさい。
そうこうしている間に授業開始の鐘がなる。
みんな大人しく席についた。
そして扉が開かれ……
「あ、ヒルデガルド先生、学院長から授業を見て手伝うように……と……」
「ああ、ちょうど良かったローズオーラさん。仕分けを手伝ってください」
「ほ、本の山!?」
扉の開いた向こうにいたのは本の山でした。
いやそれを運んでいるヒルデガルド先生だった。
魔法を駆使しているとはいえ多すぎて大変だ。
私は慌てて本を受け取りだす。
順に机の上や本棚に並べだした。
「やっぱ歩く本棚は違うなあ」
「ヒルデガルド先生、あれ全部覚えてるんだろ? すげえな……」
「歩く本棚の授業だけ、教科書ないのは先生のほうが細かくやれるからだもんなぁ」
小声でヒルデガルド先生に聞こえないほどの声で聴こえる。
私は獣耳なので聴こえるのだ。
さてヒルデガルド先生は小声の生徒たちを気にするでもなく机の上に本を乗せ終わったあと生徒たちに向き合う。
「では始めましょう。今日はこの本たちを使います」
今日でこの山の本を!?!?
私の驚きをよそに授業がはじまった。
授業は本の量にも関わらずつつがなく進む。
果たしてこれはどうなるやら。