百三十二生目 回復
医療診断AI魔法。
正式名称はまだだがAutomatic Medical Diagnostics……通称AMDと呼んでいる。
「エムド、機能解説」
「了解しました。この魔法では、主にデータベースから医療のサポートを行えます。多くの生物に対応しており、今後も利用、学習により機能拡大していく予定です」
「魔法がしゃべった! これは魔法生物のような存在なのかい? それに医療をサポートとは……治す魔法ではなく……!」
「ゴーレムを作る魔法や、魔法生物の魔法などに、強力な自動学習機能を搭載させ、魔法同士が世界中の同じ魔法と交信することでさらなる発展と進化を遂げる……そういった魔法です」
「ちょっ、ちょ、ちょっと待ってくれ、今さらっと新技術がいくつか!?」
「まあまあ、全部論文にまとめますから」
よし。食いつきは大丈夫そうだ。
「全部必要だから生み出しました。とくに自動集積、学習機能のついた魔法は、今後多くの魔法を生み出す可能性を感じています。日々の生活に寄り添う魔法を。それがこの思想の元です」
「すごい……それそのものにも、新たな期待がありそうだ。魔法を使ってもらっても?」
私はエミーリア学院長の言う通り魔法を動かす。
操作は簡単念じるだけ。
「はい。じゃあ、エミーリア学院長を対象に、医療スキャンを使用」
「医療診断を開始します、リラックスをして、普段通りのまま、ゆっくり座った状態になってください」
「あ、ああ。魔法に指示をされるとは、新しい体験だな……!」
基本魂のないゴーレムや魔法生物相手は指示することばかりだろうからね。
「医療診断、開始……」
「まあ、私は健康そのもの、なにせ若いからねえ」
「次は、呼吸器官を調べます。合図と共に素早く呼吸してください」
「あ、ああ」
「吐いて……吸って……吐いて……吸って……」
人間ドッグほどの仔細を調べられないとしてもかなり細かいところまでいける。
とにかく何かあやしいとわかる段階まで探るのだ。
血液も魔法自体が半実態なのを利用して出血なしで調べる。
「診断完了……」
「ごくり」
「結果は、まず、寝不足だと思われる傾向が見られます」
空中にいくつかのデータや画像が映し出される。
確かに化粧をしているが若干寝不足らしさが目元にみられる。
くまと指摘するのもはばかられるような違いだ。
「なんと!」
「さらに、一部データに異常があります。もしかして、座り仕事を多くなされていませんか? 1時間に1回は軽くで良いので立つようにしましょう」
「ギクリ」
「最後に、魔力波長に特別な揺れが感じられます。詳細なデータを出すため、なるべく詳しく見られる医者の元へ届けてください」
「そ、そうなのか……それは一体……って紙が生成されていく!?」
「はい。正確には紙ではないので手で書くものとしてはオススメできませんが、機能としては紙ですね。これも論文にあります」
「こ、これは土産にしてはとんでもないものを!? 寝ている場合では!」
「寝てください」
「くっ、魔法に言われてしまうとうなずきたくなる……!!」
そんな効果はないから寝て欲しい。
錬金術の力と魔法自体が半物質ゆえに物質化させて生み出す力。
「これは早速実験検証せねば!」
「え、どこへ?」
「回復の得意な先生の元へ! 結果が出るまで時間がかかるだろうから、早速誰かの先生の元に、手伝いにいきたまえ。今ならそうだな……ヒルデガルト先生の授業が、ここに」
エミーリア学院長は私に資料を押し付けて紙を回収し足早に部屋から出ていく。
う……動きがはやい。
魔法の検証だからだろうか。
「ギャンッ」
「あっ」
そして残されたペットのショッツが悲鳴を上げ素早く部屋の奥へと逃げていった……
なんだか申し訳ないから私も早く撤退しよう。
うっかり宝石庫のゲートキーパーに攻撃される前に。
さて資料によると20分後にヒルデガルト先生の授業がはじまるらしい。
初日は手伝いして雰囲気を掴む。
うーむ服も着替えるか。
前作った男性型の黒スーツがあるけれど魔法変化を仕込んであるので今の私でも着られる。
そこにローブを羽織ってと……
ヨシいい感じ。
地図の通り歩いて向かう。
手順が特殊で面白い。
絵画の前で挨拶をするとか階段の段を抜かすと違う部屋に行くとか。
1つ1つに魔術的な意味合いがあり全部活用することでこの魔術学院内を自由に効率よく行き来出来る仕掛けだ。
科学的思考に囚われすぎてはいけない。いたずら妖精が道を作り替えてしまうのだから。
歩きながら過去のことを思う。
……ノーツは現在修復中だ。
会いに行った時思いの外平気そうだったのはゴーレムゆえか。