百三十一生目 給付
「私が言うのもなんなんですが、本当に大丈夫だったんですかね……?」
「ショッツもびっくりしただけだし、大丈夫さ、多分」
ショッツという名の輝くモフモフはエミーリア学院長に介護されなんとか落ち着きを取り戻している。
時折こちらをみてはビクついているのがよくないが。
言葉は今のところ発していない様子。
「ええと、それでどこまで話しましたっけ」
「ああそうそう、魔力の波動がとてもいい、という話はまあ後で論文でまとめておくとして」
「いらないですよ?」
「正式に、ようこそグラッシュ魔術学院へ。ここは魔術を極めていくための場。学び、育ち、そして研究して社会に歓迎していく。神秘は探すほど、より深まり広がっていく。その最先端の1つが、ここだ」
「あ、はい、よろしくお願いします」
メチャクチャスルーされて真面目な話をされた。
それにしてもだ。
「その私、確かに招かれはしましたけれど……こう、試験とかは良かったのですか?」
「おや? もう済んだだろう?」
「何もやっていませんよ……?」
「何、ここまで歩いて来たじゃないか。そこに必要なものは多くあった。私は一応、ここの管理者なんでね、全部でなくても起こったことは把握できる仕組みがある。特に正面から試練を超えてこようとするものは。それとここに来てからの1晩、キミは何も問題は起こしていないし、礼節が問題あると報告はうけていない。こう対面するとより節々に感じる。最も先端にいるということは、時には実力よりも背中を見せられる美しさもいるんだ」
「そんなところからチェックを……やはりトップを走る者たちは、誰からも憧れられるような、そんな者であってほしいですものね」
「それと! さっきの波動! 静かに美しく、魂を揺さぶった! 計算された荒々しさというのかな、磨き抜かれた強大さは、なかなか真似ができないね……! アレで十分指し示せるさ!」
「おち、落ち着いて、落ち着いて!」
また鼻息荒く迫られてしまった。
せっかく良い話だったのに!
そのあともろもろの話をされた。
正確にやらせたいことや担当になる範囲。
生徒たちの名簿。
許可とやってはいけないこと。
例えば"観察"はしてオッケー。
そのかわりその内容を他者に言いふらすのはNG。
まあ一般常識的な話も多い。
だけれども同胞共和国のしかも学院という立場での常識は冒険者とは大きく違う。
そこのすり合わせも大きかった。
私は常勤ではないため比較的柔軟に組み込めるシフトにしてくれた。
そして教えるよりも大事なことと言われたのは……
「正直、キミに期待しているのは、研究方面だ」
「やっぱりそうなりますよね」
「ああ。冒険者はやはり現場主義、しかしここの魔術学院で現場で活躍するものは、そこまで多くない。フィールドワークが主でも、国をまたいで活躍できるかは別だからな。やはり新しい風、新しい考えを取り入れるには、そういう発想もいるからね」
ソレ以外にも今後の予定決めなどをして……
「そうだ。試験用にとでも思って、1つ論文書いてきたんですよ」
「ほう、キミは何に興味を?」
「元々戦いに身をおくと、けが人や病人がいることは多く有るんですが、やはりただしい医療知識は世界的に不足しています。我々が常識だと考えていた民間療法がデマで、単なる痛みだと思っていたものが重大な疾患に繋がっていたりします。しかし、十分な医療を受けられる施設と、そのための費用。どちらもまともに確保できるタイミングはなかなかありませんから」
「なるほど、そういった話はちょくちょく耳にするよ。貴族たちすらも、流行りに右往左往するのだ、民草たちは推して知るべしだな。ここの学校内はとても整っていて設備もあるが、外に出ればなぁ……それに研究名目で出資させることはできるはずもない。多くはただの裂傷や打撲、そこからくる骨折だしな」
「ええ。なので私と、共同開発の者はその前段階……個人で出来るただしい医療判断をくだせる魔法を考案しました」
「ほほう、もしやすでに実用化が?」
「まだベータ版……げふん、試用版ですが、機能としては実装できています」
私は魔力を込めて「診断開始」とつぶやく。
魔法が発動し私達の前に変な光の球が浮かび……
そこにとってつけたようなスライム顔が浮かんだ。
なんかこの前までは無機質すぎて見た目が不評だったので発生させるようにした。
やっといてなんだけどこれでいいのだろうか。
「こんにちは、ユーザーさん。本日のログインボーナスです」
「ろぐいんぼーなす……?」
「おっと、受け取り忘れていた……いえ、こちらの話です。ええと、機能をお見せしましょう」
私は押された空中に有るスタンプをみつつ答えた。