百二十九生目 院長
さすがにこのバタバタの間に他人に負担をかけるつもりはない。
ふーむ朝食どうしようか。
そんな風に悩んでいたら私の部屋がノックのあと開かれた。
「オジャマシマス。チョウショクノ、ジュンビガデキマシタ」
「あ、ついていけばいいのかな」
「コチラニナリマス」
私に全然目線が合うことなく体をターンさせて動いていく。
歩みは遅いので遅れることはないだろう。
テクテクついていく。
行きかう人々は様々だ。
まずは先生。
同じローブを己流に改造しているからすぐわかる。
割とたくさんいるのが普通のニンゲンより小さな体を背中の大きな虫の翅でとび回っている。
まるで妖精だが……"観察"。
[フェアリーズ 魔法生物のひとつ。人工的に造られたものだが、その実態は曖昧さにある。彼らの存在の真実を映す金属に触れると壊れてしまうが、その種の貴金属に合うことはめったにない]
変わり種だが誰かに造られたものらしい。
ゴーレムと違って彼らは気まぐれで不可思議な感じだ。
そこにいるのに触ることができそうにない。
なのにすれ違ってくる妖精たちはたまに私の耳を撫でる。
ピクピクしちゃうのでやめてほしい。
しっかり意志があって話しているけれどなんとなく思考回路はゴーレムに近そうだ。
そして集団で眠そうに歩いているのをみるのが生徒たち。
こちらはあまり改造していない制服を着込んでいる。
多分規定があるのだろう。
制服といっても学校のようなそれというより小さな魔法使いみたいだ。
全員ちっちゃなマントをつけて歩いている。
ただ制服以外の変化……つまり私服部分や髪のアクセなんかは指定がないのかみんなここで個性を出していた。
私は彼らを遠目に見ながらお客さん用の道を通ってまた客間につく。
既に食事がおかれていた。
去っていく自動人形を見送り食事をとる。
メチャクチャうまいというわけではないが大量人数分つくるわりにしっかりした献立だった。
ここ魔法学校では学校下の街含めて朝食昼食夕食全部確保するらしいので。
暮らしているところは離れの寮か学校街のどちらか。
ここらへんの情報は寝て起きてから調べた。
私の睡眠は完全にコントロール出来る。
最近は前より短く30分程度で完全回復するようになっていた。
(ノウのジョウホーはつねにセイ理しているからね! パパッとやるだけで済むよ!)
(肉体のケアも常にしてある。精神はツバイがな)
というわけで寝なくても常に最適化してある。
ただリフレッシュしたいのとやっぱ寝るのが最効率ということで睡眠は忘れてない。
スキルでなんとかなるとしても快と不快はいかんともしがたいのだ。
朝食のあとあれよあれよという間に私は体を整えエリックの元に来た。
「まだ測っていないため正式には用意できないのですが、こちらは教師陣のローブとなります」
「もしかして、私もこれを?」
「ええ、身分が明るいほうが、他のみんなを不安にさせずに済むので。このあとは、学院長室へ行きましょう」
「わかりました」
私はローブを手に取りサッと身にまとう。
どこからともなくたなびいた風がローブを揺らして雰囲気を向上させた。
「よし、どうですかね?」
「お、おお……」
「エリックさん?」
「あ、ああ、それで良い、大丈夫! 行きましょう!」
何かルンルンと軽い足取りで案内される。
何? 今のでなにかあった?
馬子にも衣装というやつかな?
おっ、さまになるじゃんとは私も思ったけれど。
まさかそこまで強く反応されるとは。
そうこう考えている間についてしまった。
明らかに重厚な扉。
厳重さを感じさせる扉の周囲に浮く何かたち。
立方体のプリズムに見えるそれらは明確に私へ視線を向けていた。
「それは宝石庫のゲートキーパー。盗みを働こうとしたりする悪意ある相手に対し、きついお仕置きを据えます」
「学院長室に盗みが?」
「やはり貴重な資料や、歴史ある学院に保存される、価値ある品は多いですからね。正面から潜入してくる相手は、案外多いのですよ」
「そんなことが……!」
ちょっと私も興味が湧いた。
扉をエリックがノックすると勝手に開いていく。
私達はそこに入って行って……
「ひ、広い……!」
そこは学院長の部屋というのはとても大きかった。
もちろん来客や面談用もあるのだろうけれど……
いたるところに整理されて置かれているのは魔法の品々。
いっこいっこ詳しく見ていきたい……
寝ている輝くモフモフ。浮いた透明な目玉。金の鍵。動く天秤。巨大な羽ペン。
しかし私達はそれよりも注目すべき場所がある。
「どうぞ、ふたりとも座るがいい」
「お邪魔します」
「失礼します」
目前の随分と若く見える美しき女性。
学院長だ。