百二十八生目 人形
開いた扉を少し待つと中からふたり男女が出て来た。
というか立ってるのを探知したから声をかけたのだけれど。
男性はいかにも若くて元気そうな大人。
女性はおばあちゃんと言っても過言ではない。
ふたりとも共通の制服らしいものを各々改造していて個性的だ。
「こんばんは、ツカイワさん」
「遅くによくいらしました、ツカイワさん」
「ええっと、僕はエリック、こちらは」
「わたくしは、ヒルデガルド。以後お見知り置きをツカイワさん」
「私はローズオーラ、ローズで大丈夫です。それで、今日泊まれる場所はありますでしょうか?」
「それはもちろん。事前に伺っておりますから」
「それにしても歩いて来られたとのことですが、どのようにここまで? 列車を使わねば、様々な生涯があったかと思いますが」
「それはですね――」
導かれるままに歩みつつ会話を重ねる。
中の廊下は広く様々なところにアクセスできるようになっていた。
複雑な道を行き明らかに裏手まで来る。
そうして1つの部屋までたどり着いた。
「正面から破るとは……情報を聞いてきたわけでもないのに……」
「特別講師として招かれるだけの実力はある、ということですわねエリック先生。ぜひその腕前を、ここで発揮してもらいたいものです」
「こちらこそ、むしろ学ばせてもらうつもりで来ました。よろしくお願いします」
客間にたどり着く。
食事を聞かれたので頼んだらふたりとも席を外した。
少しの間ごゆっくりとのこと。
ふう……少しふたりの人柄は見えたなあ。
エリックは基本的に物事に対して考えて感心する。
そしてゆったりしているが元気があるね。
ヒルデガルドさんは年を感じさせないハキハキとはやいしゃべり。
芯があってぶれない雰囲気と常にこちらを探る気配。
丁寧ではあるけれどラインを引いていてむしろ挑発的ですらある。
けれどふたりとも敵意はない。
きっとあれが自然体なのだろう。
もちろん未知の相手への関心は……強く感じた。
さすが学びの徒。
ここにいる間に情報丸裸にされる可能性も考えたほうがいいかもしれない。
ちなみに私の正体は学院長は知ってるはずだ。
ただ逆にあまり信用がない新任の先生や多くいる生徒たちは別と考えていいだろう。
悪意がなくとも『興味』の対象にされてしまう。
実験動物扱いはまっぴらごめんだ。
少し待つと別の何かが食べ物を運んできてくれた。
ニンゲンではなく同時に生物とも言い難い。
というかどこかで見たことの有る人形の型だった。
「世界を襲った人形!?」
思わず私は立ち上がる。
しかしすぐに違和感に気づく。
神力が感じられないのだ。
「ゴハンヲオモチシマシタ」
「え、あっはい……」
それだけじゃない。
複数箇所に修理の跡。
声は聞いたこと無いくらい棒読み。
極めつけは動きだ。
神に造られた人形たちはスムーズだったがこっちはまるて油の切れたあやつり人形。
これでは戦闘など無理だ。
「カクカクとした動き……それに……」
「ゴユックリドウゾ」
「全然反応を返さない……これは、誰かが直して使っている……?」
運ばれた軽食を食べて想いを巡らせている間に部屋の用意が出来たらしい。
ヒルデガルドさんが迎えに来た。
移動されている間に先程の人形について聞く。
「あれはわたくしの管轄ではありませんが、フィールドワークからふらっと戻ってきた先生が、拾ってきたと。それを別の先生が分解し、直したはいいものの、元の機能は発揮出来そうにないとのことで、代わりにあのように」
「なるほど……簡単なことならさせられるわけですね」
「この学校では似たような魔法道具がたくさんありますから、ローズオーラさんもじきに慣れるかと」
多分コア的な部分が完全におしゃかになってしまったのだろう。
脳がないのと同じだ。
代わりの脳を入れてもそれは別人なのと同じ。
話に納得しつつも早速この学校の凄みに圧倒されだした。
案内された部屋はキレイな個室だ。
ただ触ると何が起こるかわからない品々が配置されていて下手に触るのはやめておいた。
ベッドで少し眠ることにする……
おはようございます私です。
さすがに学校内でアノニマルースにいるときのルーティンをするのは迷惑になる。
サッとアノニマルースに出てルーティンこなして戻ってきた。
学生みたいなことを言うが朝から汗を流さないとね。
冒険者らしさでもある。
それにしても学校というものは朝の時間が1番慌ただしいらしい。
「全員分の朝食揃いました!」
「ちょっと、またあの先生寝坊している!」
「生徒たち誘導全員行ってるかー!?」
裏でもこの叫びっぷり。
昨日の静寂と学徒としての雰囲気は一変。
子どもたちを管理するという大仕事に追われる責任者たちの姿が見えた。