百二十五生目 祝祭
超巨大魔導機関スターは完全に沈黙して邪念のような意思は消え去った。
賢明に直しているところだそうだが時折作業員たちに幻聴が聞こえるそうだ。
「……あり……がとう……」
ささやくような鈴なる声は儚く消える。
スターのあのスピーカーからがなりたてる声とはまったく違う。
付喪神的なのがいたとしたらこっちが本来のスターだったんじゃないだろうか。
まあ誰にも確認の出来ないことだ。
少なくとも帯びさせられていた神力……一般的に言う『呪い』は既に消え去っている。
正気に戻ったのならなによりだ。
スターはいいとして。
私は少しできた時間で『グラッシュ魔術学院』に行ってみようと思う。
そう誘われていたあの学院だ。
ちょっと行ってくるで行けるような距離ではないものの……
まあ蒼の大地西の土地ってそんなに行ったことないのからちょうどよし。
東に展開している帝国の西端にワープして駆けていけば数日でつくだろう。
まあ目移りしなきゃね!
実際のところ私の分神召喚で世界のあちこちに呼ばれているものの……
どれがどこらへんの国かってなんとなくは分かっても特定には至らないのがほとんど。
博打で飛ぶのもなあと考えている。
魔術学院に喚ばれたら早かったが残念ながらそうもいかないらしい。
それに私が旅したいのもある。
結局そこにたどり着くので走っていかないという手はないのだ。
「よーし、行く、かぁ!」
まともにカルクック車に乗って移動している冒険者たちを置き去りに駆け出す。
初心者のうちだけでそのうち移動は自前になる。
あるあるだと思います。
私の移動は地図上で示したほうがわかりやすく速いものだろう。
ゆらゆらと地形の流れに沿って駆けて……
少し気になったのでやたら高い山に登って……
また駆け下りる時にスノボしたりして。
国境のチェックだけはしっかりやりつつ。
面倒そうな厳重な街をスキップしたり……
適当に賊をしばいたり……
感謝されてご当地グルメを味わったり……
まあ色々ありつつ進むと凄まじく蛇行するよね?
あとなんだかセキュリティ系のパス速度がだいぶ増している。
昔より断然すんなり通してくれる。
ランクVプラス(になった!)『自由』の二つ名つき冒険者は伊達ではないようだ。
町や村を縫うように移動しつつ時には完全に野山へいく。
巨大な渓谷やただっぴろい平原。
皇国やアノニマルースがある荒野の迷宮と肌感覚がまるで違う世界。
魔物たちの中でたわむれたり。
迷惑そうな魔物を倒したり。
なんかさわがしい神を倒したり。
賊をしばいたり。
うっとうしいドラゴンを追い払ったり。
賊をしばいたり。
賊をしばいたり。
賊をしばいたりして。
財宝を見つけたり。
最終的にそろそろ行かないとと思って突っ切りなんとかついた。
魔法学校のある国の同胞共和国だ。
皇国に比べ同胞共和国は気候に湿度が混じっていない。
あと1日の気温差が大きいみたいだ。
朝晩の冷え込みと昼の暑さに行き交う人々の服装に工夫が見られる。
やはり思うのは街並みがとても古い。
運河も家も宮廷も広場も。
古臭いんじゃなくて古いまま保っている。
遺跡を完全に修繕して生きた街として使っているみたいな空気感。
確かここらへんは地震とか台風みたいな家屋を破壊する災害が極端に少なくて、傷みにくいんだったかな。
とてもうらやましい環境だ。
荒野の迷宮にあるアノニマルースですらコントロールされた気候でもエネルギー汚染から逃れられ無い。
迷宮に満ちる魔力エネルギーは生き物に恩があると同時に建造物などにダメージが入るんだよね……
ここまで丁寧に使い続けているのは間違いなくお国柄もあるだろう。
レンガの重みはそのまま歴史の重みを感じさせた。
同胞共和国。ここはそんな国だ。
「なんかヒト多くない?」
正直この街入ってからそっちのほうが気になっていた。
人々が浮き足だっているというか。
そもそも他の街より人数多いと言うか。
これはイベントごとの予感。
早く宿を確保しないと。
「今はどこも予約でいっぱいだよ!」
「マジですか」
私は途方にくれていた。
3件目の宿にきたのだがついに悪魔のひとことが飛んだ。
「あんた、何も知らずに来たんだってね? 運が悪いっていうか、ばかな冒険者っていうか……」
「現地に来て情報を得るのが趣味だもんで」
「じゃ、現地だし教えてやるよ」
気前のいいおばちゃんは笑顔で腕を組んだ。
「ここから半月! 我が国最大のお祭りが始まるのさ!」
「ああ、やっぱり何かイベントが!」
「その名も……ビール祭りさ!!」
メチャクチャ楽しそうに女将さんは声を鳴らした!