百二十三生目 機関
ホルヴィロスが出してくれたお茶を飲む。
同時に机に上げられた書類を順に見ることとした。
「これは、ローズの体の精密検査のデータだね。まあ大半のことは医療的なデータで、今必要じゃないよ」
「ふむふむ、確かに」
「問題はここだね。魂とか神力とかのデータをはかってある。ローズの普段の値が左、現在が右、異常値だね」
「えっ、なんか10倍くらいない?」
神力塊を作れる数そのものはほとんど変わっていない。
数個程度だが神力の量である。
前が10なら今は100あるという測定値になっている。
「でもほら、他の値はあんまり変わっていない。つまり安定しているわけだよ」
「なるほど……あ、もう一つ跳ねている値がある」
「それは……ええとわかりやすく言うと最大出力だね。実際は別の値なんだけれど、わかりやすい言葉にするとそっちになると思う」
「数字的にそこまで広がってはないけれど……」
「いや? そもそもこの値はじっくり伸びるものなんだ。そして1どころか0.1伸びるだけで大差がある。神々は永い時を生きるのは得意でも、こういうのを鍛えて伸ばそう、とはなかなかならないからね……ええと今回の異常さは、今まで100kgの物を持ち上げるのが限界だった方が、とある日寝て起きたらなぜか500kgのものを持ち運べるようになっていた……といえば、異常性が伝わるかな?」
「思ったよりえげつないことになっている……」
急成長ってレベルじゃない。
ほぼ覚醒とか代償払った時のパワーアップじゃん。
あっ代償払ってたわさっきまで治療されてたわあ。
「まあ当然、ここまでの拡張は破綻があってもおかしくない」
「あ、そうなんですね」
「そこでさっき言った特異体質だよ。この資料かな……私が見た限りは、ローズは何度も戦って治してを繰り返している間に、心身がそれに対応しているみたいで、治って強くなる、ということに対して異様な適応を魅せているんだよね」
「ああ、なるほど」
傷の治りやすい戦士みないなもんかしら。
「それで、神力だけではなく通常のエネルギーも使用されること前提に、ものすごい勢いで回復し続けている」
「えっ」
「常に心身共に最善の状態を復帰しようと、重ね続けているんだね。この過剰なほどに湧き出るエネルギーは、心身の超回復に回されて、壊されても治った後にとんでもない強さになれる。これは無限に湧き出る燃料のようなもの」
「私いつの間にか永久機関になってたの……? 神になってからエネルギーが途切れることはなかったし、神力はうまく扱えなかったし、こんなものなのかなと」
「だいたいの神は、膨大なプールに長期間溜め込んであるだけだよ。だから、大胆な使用を躊躇うし、いつかは枯渇するから結構気にして戦う。いや、そもそもできるだけ戦闘しないようにする!」
なんだかかなり意外な話だ。
特に感覚的なイメージとのズレが。
私が神と戦いすぎなだけな気がしてきた。
「それと、話を聞くに大地をひっくり返してきたんだっけ?」
「ああうん、全然私の実力じゃあ届かなかったけれど、工夫とみんなの想いを使えたからなんとかなったよ」
「それ、それもメチャクチャ変」
え?
神として何か変な点があっただろうか?
ホルヴィロスの黙っていれば威圧感があるほどの良い顔がググっと迫る。
近い近い。
「神は1度自分を通し、自身の神力として消化して、そこから概念化、具現化させていく。つまり処理と出力をかます必要があるんだよ。けれどローズはそこを通していない。直接見ていないからなんとも言えないけれど、普通の魔物から神に成り上がったから、何かが違うのかもしれない。そのことはデータに出ていないから、医学的には何も言えないかな」
「ふむぅ……」
つまり詳しいことはわからないと。
害がなければそれでいいけれど。
確かにあのとき私や精霊を介していなかった。
どこを使っていたのかと言われてもわからない。
あの時私は自然なこととして扱っていたのだから。
「ま、とにかく診断結果としては、無理をしないように。すぐに異常があれば知らせるように。死んでも良いは死んで良い理由にはならないからね」
「いや、今まで死んだの不意打ちの1回だけだったんだけれど……まあ言いたいことはわかるよ。ありがとうね」
「……やっぱり今のままだと、私が診るには限度があるなぁ……」
「ホルヴィロス?」
「ああ、うんお疲れ様!」
なにかモニョモニョ言っていたがまあいつものやつだろう。
私は特に気にすることもなくその場から離れた。
さあて……なまった体をほぐしにいこうか。
空に舞う雪はアノニマルースの端っこに常に見える。
美しい景色だけれどヒトによってはあまりに歪びつだろう。
神々の力はきっとこういう主観によって大きくかわる……そんなものなのだ。